湿っぽい中華まん(消火後)

 塩分のあるクッキーと甘いアイスを組み合わせると、美味しい。甘味のないクッキーで挟んだアイスを、もぐもぐ食べる。一気に二つ食べたからか、寒く感じた。エアコンの風が強い。けれどさっきはちょうどよく感じた。これも、アイスで体内の温度が一気に下がったせいだろうか? もそもそと毛布を探した。ブランケットである。それで身体を包む。
「夏なのに、なぁに冬籠りみてぇなことしてンだ」
「一気にアイスを食べすぎたからだろう。ったく」
「るっさぁい」
 二人が同時にいってきたから、纏めて返す。ゲーラはダラダラしてるし、メイスは読書中だ。あっ、よく見たらなにか見てる。「横になりてぇ」「だったらベッドに行ったらどうだ」ダラダラしたい気持ちは本気のようである。メイスが三人で座れるソファの端に座って、ゲーラは一人掛けのソファに座る。「そこ、リオの席じゃぁ」「ボスがいたらな」そういって、ゲーラが両手で自分の目を覆う。限界がきてる。メイスを見ると、こっちも釣られて気分が落ち込んでいた。見るからに、どよんとしている。ただ指摘をしただけなのに。とりあえず空いた端に座ろうとすると、ゲーラのスマホが鳴った。プルルル、と電話の着信音である。発信者は、サングラスの人だ。ゲーラも名前を知らないからか、ニックネームで電話番号を登録していた。sunglasses≠ナある。名前、そのまんまだ。耳に当てることもせず、スピーカーを押して着信に出る。
「あー? なんだよ」
『あれ? 声、遠くねぇ? ま、いっか。そこにメイスとななしはいるか? 良い中華料理店を見つけたんだけどよ。一緒に行かねぇか!? 今ならなんと、通常より安い!!』
 スピーカーによる弊害を一切気にせず、サングラスが捲くし立てる。こちらが質問する隙も見えない。ポカンとしてたら、顔を顰めたゲーラが、こっちを見てくる。げんなりとした様子で、自分のスマホを指差していた。「コイツ、どうするよ」と意見を求めているようにも取れる。私にはどうといえばいいのかわからなくて、メイスを見る。メイスもメイスで「はぁ?」と顔を顰めていた。ゲーラと同様、眉間の皺がすごい。こっちも眉が吊り上がっていた。ということは、私しか受け答えができない。少し考えて、サングラスにこう返した。
「そこって、美味しいの?」
「おい」
「はっ? 待て、まだ行くと決まったわけじゃ」
『本格的らしいぜ!! チャイニーズタウンにあるっぽいけどよ、まぁ地名だけで期待が上がるよな!』
 そう自信満々にいわれると、どうしようもない。チラッとゲーラとメイスを見る。私がゲーラのスマホに近付いたから、遅れてメイスもやってきていた。なんか困惑している。二人して顔を合わせていた。「どうする?」「どうしようもねぇだろ」そう目で会話しているようにも見えた。「チッ!」とゲーラが舌打ちをして、ガシガシと頭を掻く。少し考えて、サングラスに口を開けた。
「いつになるんだ?」
 行くようである。
 それでサングラスと打ち合わせした日と時間になって、チャイナタウンに行く。「相変わらず、ゴチャゴチャしてんなぁ」「本場もこのようだぞ」「マジか」「独特の匂いは少ないけど」プロメポリスな分、少し勝手が違うのかもしれない。そうこう考えてゴチャゴチャとした通りを歩くと、サングラスのいってた店に着いた。「言い出しっぺが来てねぇのかよ」「どこかで道草食ってるんじゃないのか」「迷ってそう」そんなことを話してたら、サングラスが来た。ちょうどいい。手に、なにかのチップを持っている。
「いやぁ、助かったぜ! これ、四人以上じゃないと使えないらしくってさぁ。って、あれ? リオはどうしたんだ? お前らと一緒じゃねぇのか?」
 何気なくサングラスが聞く。それを受けて、ゲーラとメイスがドヨンとした。先日と合わせて二度目である。せっかく、調子が戻ったところだったのに。「えっ、どうしたんだ? 急にテンションを下げて」「るっせぇ」「気にするな」慌てるサングラスに、ゲーラとメイスが厳しく返す。これ以上の追求を避ける気だ。これはよくある。よく見かける傾向である。ゲーラとメイスに背中を押され、私も店の中に入る。店内は、赤と黄色をベースにして家具もそれに揃えてあった。多分、国旗からレイアウトを組んだのだろう。なんとなく、そう感じる。テーブルも、普段のとはまったく違った。円形である。しかもグルグル回せる。「これ、食うごとに回すらしいぜ!」「へぇ」「お前にしては珍しく、勉強をしたんだな」「でも、回すのは大皿だけだと思う。ほら、取り分け」「あー、立食パーティーみたいなモンか」「バイキングともいう」「えっ、俺への賞賛は?」そんなことを無視して、渡されたメニューを見る。(あっ、中華まん)食べたいな、と思った。ゲーラとメイスを見れば、それぞれ話している。
「シュウマイってのも気になるな。あと、北京ダック」
「高いぞ。おい、割引は何割までできる?」
「あー、っと。一割って書いてあるな。メニューによっては三割だ」
「なんだ、そりゃぁ」
「だったら、三割を狙うぞ。ななし、三割のを選べ」
「どれ?」
「あー、これとこれだろ。あと、これだな」
「ほぼサイドメニューと、お馴染みの商品」
「つまり裏を返すと、あまり出ない料理が一割引きってところか」
 サングラスがそう纏めた。ついでに見ていた中華まんが三割引きの対象なので、これを選ぶ。「あっ、スープもあるっぽい」「へぇ、だったらシュウマイと一緒に頼んでみるかね」「フカヒレのスープもあるらしいぞ。しかし、聞いた割りには安いな。偽物か?」「なぁ、俺がいることも知ってる? 気付いてる? なぁ」サングラスがなにか泣きそうな声をしてたけど、どう返せばいいかわからなかった。
 結局、私は中華まんでゲーラはシュウマイ、メイスは『刀を削る麺』と漢字を並べたものを選んだ。「どうしてそれ?」「字面がカッコイイだろう?」「クソッ、俺もそれを選びゃぁよかった」(そういえば、ゲーラとメイスの漢字って)ただ単に、字面がカッコイイから、との理由で彫ったと聞いたような。そしてサングラスがまた泣きそうに「なぁ、俺がいることも知ってる?」って聞いてきた。これに対する回答は、持ち合わせていない。いることは知っているのに、どうしてわざわざ聞くんだ? との疑問が強いからである。
 コトン、と注文したものが置かれる。最初に出てきたのは中華まんだ。やはりジャパンでも見かける分、早く出せるように準備を整えているのだろう。一個取り出す。
(あっ、思ったよりボスの後頭部に近い)
 リオの髪も結構ふわふわで、ボリュームがあったよなぁ。そう思ったら、真横でガコンッ! と強く激突する音が聞こえた。両脇を見る。ゲーラとメイスがテーブルに額をぶつけていた。「うぅ」ゾンビみたいに呻きながら、のろのろとテーブルに腕を乗せた。頭を腕に押し付けている。
「ボス」
「どうして、なんでですか。ボス」
「なぁ。本気で、今日のコイツらはどうしちまったんだ?」
「ここ数日、ボスに会えなくて禁断症状出てる」
「あー」
 それで大体察してくれたようだ。とりあえず、中華まんを食べる。がぶり、とふわふわな生地を食べてたら、二人が阿鼻叫喚になった。「テメッ!! なにボスを食ってんだ!?」「今すぐペッってしろ! ペッて!」「別に、ボスの顔で焼かれてるわけじゃないのに」「蒸すな。どっちにしろ、こえぇよ。お前ら」なんでサングラスにまでいわれなきゃならないんだ。もうっ! それに怖くもなんともないし。肩を掴む二人を無視しながら、中華まんを食べ進める。あっ、肉。美味しい。
「あぁああ!! ボス! ボスッ!!」
「申し訳ありません! ボス!! 俺たち二人が付いておきながら!」
「あー、なんだったら、今すぐでも呼ぶか? ボス。人数増えても大丈夫だろ、こりゃぁ」
「でも、ゲーラとメイスが付きっ切りになるから嫌がると思う。ボス、最近それで避けるようになったし」
「おい!! 今のでトドメ入ったぞ!?」
 ゲーラとメイスが沈黙した。返事がない。死んでいるようである。(料理が来る前に、復活しているといいな)と思いながら、中華まんを食べ続けた。とりあえずこの会食が湿っぽく二人の相談になったのは、ここだけの秘密である。


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