村の形ができあがったとき(消火前)

 バーニッシュの村ができたとき、一つの問題が生じた。それぞれの寝床である。村長でありマッドバーニッシュのボスであるリオの寝床は最初から決まった。村の中心に位置するところである。問題は、ななしとゲーラとメイスの三人だ。普段の様子から一塊にしようとしたところを、ななしが止める。「や、村の両端に分かれて、背後と正面の襲撃に備えた方がいい」ただでさえ、壊れた架橋は左右に出入口となる空間を残している。工事や修理用に備え付けた階段がある側が村への出入りする道となっているが、空を飛べるとなれば話が違う。そこをななしは指摘した。確かに一理ある。しかしそれでも納得が行かないのが二人だ。「あ?」とゲーラは顔に険を寄せる。「なにをいっているんだ?」とメイスは眉を顰めた。あからさまな否定である。この反対意見に「だって」とななしは続けた。
「前後の守りを固めるのは、定石でしょ?」
「そりゃぁ、話はわかるがなぁ。だからって、お前一人だけで寝かせられるかよ」
「毎回、番がくると服を掴んで止める癖に。なにをいっているんだ?」
「そ、それは。仮眠をするから、大丈夫だし」
「あぁ、だからななしとゲーラかメイスの順番が多かったんだな。三人で見張りをする日もあったし」
「でも、その分ボスは寝れたでしょう?」
「後ろめたさはあったけどな」
「ボスは育ち盛りなんだから、ちゃんと寝ないといけませんぜ?」
「そうですよ。コイツみたいに、ちゃんと食べてくださいよ?」
「いわれなくても。食べてるときは食べてるさ」
「本当かなぁ」
「ななしも、少しずつでいいから食べられるようになるんだぞ? いつまでも炎だけじゃ、持たないだろう」
「これが意外と、持つんだよなぁ」
「嘘吐け! 水は飲むだろ、水は!」
「せめてジュースも飲めるようになるといいんだが」
 水よりもよっぽど摂取できる栄養素が多くなる。そうメイスはいうが、ななしは納得できない。体内で燃やせば燃料となって凌げる──人間の身体を維持する水分を補給すれるば大丈夫だろう。そう考えていた。元より、身体が水以外を摂取することを拒む。苦い顔をするななしを無視して、メイスは天井を見上げる。壊れた架橋の内部だ。リオが天窓の代わりとして開けた穴が、天井付近の壁にある。ななしはまだ不満そうな顔をしている。ゲーラはその両頬を片手で抓んだ。
「食わなきゃ、ぶっ倒れちまうだろうが!」
「ぶむっ。でも、ゲーラやメイスたちより体力はあるもん」
「それはバーニッシュとしての方だろ。二人がいっているのは、違う方だと思うぞ」
「あぁ、やはりな。侵入経路としたら、この天窓の部分もある。中央に寄せて、緊急時はバイクで駆け付けられるよう道を開けた方がいいだろう」
「となると、アジアの露店とか市場を参考にした方がいいか?」
「あー、川とか移動するヤツで? の代わり、端の方はかなりごちゃつきそうだが」
「それは問題ないだろう。廃材で二階建てにする手もある」
「もしくは、僕たちの炎で柱を作るかだな」
「でも、炎で作ったものは死んだら残るかもわからないし、力がなくても残る方がいいと思う」
「となると、廃材で組み立てるのが先か」
「まぁ、ゆくゆくはバーニッシュに理解のある人間も村に住む予定がある。そうですよね」
「あぁ。そのつもりだ。恐らく、少なからずもいるだろうし」
 それで人間とバーニッシュが共存する道が見つかるかもしれない、とリオは零す。それでも、人間社会との隔離を前提とした話だ。天井から地面に顔を戻し、ななしは呟く。
「じゃぁ、中央に寄せて、そこから前後に分かれて」
「駄目だっつーってンだろ」
「お前が一人で寝られるか不安になる」
「過保護か? そういう話は後に回してくれ。ななし、それよりも先に、どこになにをどう配置するかが重要だ」
「それもそっか、うん」
「話は終わってねぇからな? そうっすね。ボス」
「ちゃんと覚えておくんだぞ? でしたら、こういう案が」
 そういって、メイスが地面に図面を描く。棒はない。バーニッシュの炎をマグマのように溶かして固めた棒だ。それでガリガリと簡単な地図を描く。ななしはなんとなく把握する。「ここに、居住区ができる感じか?」とゲーラが聞き返した。「家ほどじゃないけどな」とメイスは返す。「ワンルームにも満たない感じだろう。精々、カプセルホテルといったところか」「カプセル? まぁ、個室に満たないでも、プライベートを確保するための仕切りは必要だろう」前提となる情報が一部共有されていない。「錠剤?」「カプセルみたいに狭い個室ってことだ。まっ、ベッドだけって空間だろ」言葉を噛み砕いたななしの誤訳をゲーラが訂正する。まだ村の形だけができあがったときだった。


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