完全にやりすぎたあと(消火後)

 二人より早く起きた! と思ったら、起きれていなかった。なんだろう。二人でしてるから、それほど疲れてないという、感じなんだろうか。それとも、私だけ? 二人分のを受けてるから、私だけ二倍疲れるとか、そういう単純計算? ベッドから起き上がろうとしたら、痛みで起き上がれない。主に背中とか腰とか、太ももの付け根とか、そういう。はぁ、と大きく溜息を吐く。(そういえば)なんで私のベッドだけ、こんなに広いんだっけ? 枕に顔を埋めていると、扉が開く。シーツや枕カバーを抱えたゲーラが、入ってきた。ツカツカと大股で、ベッドに近付いてくる。シーツの上に新しいのを置くと、ベッドの端に手を伸ばした。それを私に渡す。
「ほれ、上だけでも着ろ。今から替えっからな」
「まだ寝れるのに」
「べちょっとして気持ち悪ぃだろ」
「誰のせいだと思ってるの?」
 そうといえば、ゲーラが黙る。心当たりがありまくる、という顔だ。のそのそと、どうにか起き上がる。やっぱり腰とか背中が痛い。ゲーラから受け取ったシャツを着ると、ブカブカ。明らかに私のじゃない。そして、多分シャツの持ち主は、何食わぬ顔でシーツを替えようとしている。
 よく見たら、もう新しいのに着替えていた。
「スリッパ、そこにあるからな。退いてくれねぇと、下のシーツが替えられねぇ」
「替えられるよ?」
「お前を転がせりゃぁな」
 そこまで詳しく説明する必要ある? から、この文句。別に転がしてみてもいいのに。テーブルクロス抜きをする、テーブルの上にある物の気持ちを味わえそう。そう思ったら、上のシーツが抜き取られた。羽毛の入った中身だけが、クルクルとベッドの足元に丸められる。私と羽毛とで隠れた下にあったものは、大きな染みだった。心当たりがありすぎて、ブワッと赤くなる。汗も出てきた。ギュッとシーツを握り締める。呆れたゲーラがボリボリと旋毛辺りを掻いて、溜息を吐いていた。
「あー、それ以上見たくねぇなら、さっさとシャワー入れ。あとはやっておくからよ」
「うっ」
 うん、とだけ小さく返事が出た。いそいそとベッドから降りる。ゲーラのシャツなだけあって、裾が長い。短いワンピースの代わりになった。(代わりに、肩がブカブカだけど)とても落ちる。スリッパを履いて、部屋から出ようとする。ゴミ箱に入ってた量に、ビクッと驚いた。思わず後退ってしまうと、ドンッと背中になにかが当たる。「はぁ」「てめぇなぁ」とこの声は、明らかに。ゲーラである。
「んなに反応するようなら、また食っちまうぞ」
 スルリと裾から太腿の内側に潜って撫でてきた感触に、ビクッと全力で逃げ出してしまった。多分スルリと抜け出せたように思える。ゲーラがわざと離した、という気もするけど。脱げたスリッパの片足を拾って、履き直す。案外、私の部屋からシャワー室は近い。というか、ほぼ目と鼻の先。がちゃりと開ける。思えば、バスルームはトイレと一体だ。どこに着替えを置くのかといわれたら、もちろんバスタオルを置くとか、そういう場所。バスタオルの上に、ちゃっかり私の着替えが置かれていた。無言で上下を入れ替える。バスタオルが上じゃないと、濡れちゃう。シャワーカーテンの向こうが、なにか動いているようだ。シャッと少し引いて、中を覗く。半裸のメイスがバスルームの掃除をしていた。ズボンの裾を捲っても濡れている。気付いたのか、こっちを見た。纏めてない前髪が耳から落ちた。キュッとハンドルが捻られる。
「起きたのか」
「ん」
 シャワー、止める必要あった? 手にスポンジを持っていて、泡がある。見たら、バスタブの中も泡が残っていた。持ってない方の手の腕で、軽く前髪を上げようとしていた。なんか困っているように見える。
「あー、そこの、足元にあるバケツを取ってくれるか? 悪いな」
 多分これだろう。近くにあったバケツを渡す。「すまんな」といってメイスが受け取った。お湯を張るハンドルを捻って、そこに水を溜める。半分ほどになると、蛇口から遠いところから水を流した。多分、泡を洗い流しているんだろう。(けど、どうして洗う必要が)って気付いたところで気付く。多分、あれのときだろう。カァッと顔が赤くなる。思わずシャワーカーテンの後ろに隠れた。少し巻き取って、防御壁にする。
「終わったぞ。おい、遊ぶな」
「遊んでない」
「とにかく、脱いだ服はそこに置いておけ。あとで取りに行く」
「入らない?」
「シャワールームには、入らない」
 今、強調したな。今。シャワーカーテン越しに目を合わせてきたあと、バスルームを出て行く。(まぁ、トイレするときは、鍵を閉めればいいだけだもんな。うん)そういえば、バスルームが二つあるはずだ。その一つがマスタールームで、つまりボスの部屋。今は出て行ったから、不在の主を待つ身だけど。そこを勝手に使うのは不味い気がして、自然と避けているから、そういう。
(使えるのを増やすとしたら、引っ越しするしかないのかな)
 メイスが出て行ったのを見て、シャワーカーテンから出る。身体を隠したシャツを洗面台側に置いて、バスタブに入る。こうなったら、一旦聞く方が早いかもしれない。(今度、切り出してみよう)お湯を浴びながら、痛む腰を擦った。


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