マシュマロトースト(メイス)

 マシュマロを食べる。直に食べていたら、メイスが信じられなさそうな顔で見てきた。「勿体ねぇな」と。それから大股で近付いて「俺が美味い食べ方を教えてやる」といってきた。なんだ、なんだ。手には食パン、オーブントースターにイン。焼いてる間に、皿とコップを出してきた。瞬く間にキッチンに並べられる。
「朝飯は食べたか?」
「まだ」
 あのマシュマロが朝食代わりだった、とは口が裂けてもいえない。そんな状況に思えた。カチャカチャと食洗器の中を片付けるメイスが「そうか」という。とりあえず見てるだけじゃアレなので、私も手伝った。この皿はあそこに、この皿はそこで、コップはまた別の場所で。食洗器の中を全部片付かないうちに、チンとオーブントースターが焼き上がりを告げた。早い。おっと、とでもいうようにメイスの顔がそっちへ行く。ベルを鳴らしたトースターからトーストを取り出し、用意した皿に置く。私から取り上げたマシュマロを、傍らに置いた。カチャっと冷蔵庫を開く。
「ななし。バターとチョコレートクリームとピーナッツバターだったら、どっちがいい?」
「バター」
 少なくともチョコレートの気分じゃないし、パンじゃなくてマシュマロ自体にかける。ピーナッツバターは未知数なので、後回し。「そうか」とメイスが答えて、焼き上がったトーストにバターを塗っていく。端まで万遍なく塗ろうとして、トースターの表面が負けた。パリッと、中のふっくらとした中身を見せる。それにメイスはちょっと眉を顰めて、端から端へギリギリに塗った。割れたところにバターの塊を、ほんの少しだけ残す。それから、マシュマロを四角形の内側に敷き詰めた。ちょうどバターマイフの圧力で負けた段差が、縁の代わりとなっていた。それを、トースターへもう一度ぶちこむ。
「焼くの?」
「あぁ」
「溶けない?」
「驚くことに、溶けない」
 溶けないんだ。と思いながら、トースターの示す残り時間を見る。「なにか飲みたいものはあるか?」とメイスが聞いてくる。続けて「コールドで」と付け足した。なんか、野菜を食べたい気分。なにかあったっけ? 冷蔵庫を開けてみると、手軽に食べれる野菜がない。(買っておくべきだった)代わりに、野菜ジュースがある。
「野菜ジュースで」
「了解」
 と気軽に受け答えしながら、私の横からヒョイッと野菜ジュースを取った。キュポッと蓋が開く。コップへ注がれる前に、チンとベルが鳴った。焼き上がりである。オーブントースターに近付き、中身を取り出す。
 トーストの上に乗ったマシュマロは、形を保っていた。
(焼けてない?)
 けれど、表面に焦げ目はついている。大きさも心なしか、膨らんでいる。メイスが皿を持って、近付いてきた。
「それで、少しは完成に近い。食べてみろ。とろとろだぞ?」
「溶けてないのに?」
「外は、だ。砂糖の膜できっとシェルターを守っているんだろう。食べてみろ」
 なんか、上手いこといった? 砂糖の膜でできたシェルターとやらで、とろとろの中身が守られているのらしい。皿がトーストの下に現れる。食べかすが落ちないよう、ある程度の配慮がされていた。(とろとろの、中身)あのマシュマロが? 信じられない。メイスにいわれた通り、パリッと一口食べてみた。
(あっ)
 本当に甘い。一口齧ったらトロリと溶けて、裂けたトーストの断崖で堪えてる。ちょっと角度を変えて、裂けたマシュマロをトーストごと食べた。パリッ、パリッと音が生まれる。糸を引くマシュマロをトーストごと遠ざけて、口と縁を切らせた。
「おい」
 もう一口食べる。
「ついてるぞ」
 トンッとメイスが自分で自分の口を叩いた。直前の発言を考えると、私に対してだろう。「えっ」とメイスの示した場所を、自分で触ってみる。なんか、マシュマロがついたような感触はない。
「違う。貸してみろ」
 といわれて、顔を持ち上げられた。顎に指が数本かかって、体勢を維持しないとちょっとつらい。親指が唇をなぞる。同じ箇所を数回往復して、スッと離れた。メイスの顔の前にいって、人差し指と擦り合わされる。
「取れたぞ。案外、口に付きやすいからな。外で食べたときは気を付けろよ」
「そうなんだ」
 だったら、生で食べた方がいいのでは? でも、最後に拭えば問題なさそうだし、生だと味わえない味わいなんだよな、これ。ボーッともう一口食べる。溶けたマシュマロが、また伸びていた。


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