疲れているときはできない

 ホラー映画の見すぎで、夜寝るのが怖くなった。しかも一人で寝ると、嫌なことを思い出して辛い。ホラー映画で見た、あのシーンとかあのシーンとか、憂鬱になるシーンとか。不眠となる。睡眠の敵だ! なので、どうにか頼んで添い寝をしてもらうことにした。人がいると安心できる。
「で、何回目だと思ってんだ。え?」
「いい加減、学習したらどうだ」
「だって、流してる分なら充分で」
「ちゃんと見てねぇのかよ」
「まぁ、"Netflix and chill" なんて言葉があるくらいだしな。そういう文化も、あるにはある」
「どうせ流すなら、アクションとかド派手なのがいいだろ。『マッドマックス 怒りのデスロード』とかな」
「サスペンスも中々いいぞ。ミステリーものも面白い」
「それだとガッツリ見ちゃうから、作業用にできない」
「で、毎回俺らに頼んでるっつー破目になってんだろ」
「毎晩蛇の生殺しになっている、こっちの身も考えろ」
「だって、眠れなくて」
 あと普通に毎回受け入れてくれるから、それにダラダラと甘えてるのもある。「他の人に頼んだ方がいいのかなぁ」って呟いたら「あ?」「なんだと?」と頭上から不機嫌そうな声が聞こえた。
「だって、そういうサービスもあるって。有料で、やってくれるとか」
「はぁ? んな赤の他人に頼むより、もっと頼れるヤツに頼る方が早ぇだろ!」
「というか、どういうサービスだ。それ、膝枕でもオプションで付いてくるヤツか?」
「知らない」
 寧ろ初耳だ。ツン、とメイスが指で頬を突いて、ゲーラが頭を抱えてくる。ちょっと、この体勢だと身体が凝りそう。グッと身体を伸ばしてみた。
「寝れそうか?」
「もう少し。あーあ、マッサージしてくれたらなぁ」
「ワガママいってんじゃねぇ。マッサージ店に行け。店に」
「ここか? こういうところも、凝っているな」
「おい」
「うわっ、その辺り。結構効く」
「あまり甘やかすんじゃねぇ。調子に乗るだろ」
「あと」
 メイスの押すとこ、すごくわかってる。押されたところから、なんか楽になってきた。
「腰のところも、押してくれると助かる」
 その辺りも、なんか凝っているところもある。『してくれたら助かるなぁ』なんて軽い気持ちでいったら、二人が黙った。えっ、なんで? さっきまでの軽口を叩いてたノリは? モゾっと顔を出そうとしたら、グッと腰を引き寄せられる。
「テメェ、本気でいってんのか?」
「どちらにせよ、調子に乗りすぎているだろ」
「えっ」
 どうしてキレ気味? 待って、と伝えるように腕を掴む。これはゲーラで、これはメイスだ。掴んだ腕の持ち主を把握すると、ツッと背中が撫でられた。
「こしょばい」
 指が止まる。黙るメイスの雰囲気が突き刺さる。前からも、ゲーラの黙る雰囲気が突き刺さった。固まった空気が、おずおずと動く。ゲーラの手が、腰の適当なところを押した。
「なんか、違う。この辺りというか」
 あっ、自分で押した方が早い。グッグッと親指で押しているうちに、ゲーラの手が腰のラインを撫でる。なんだろう、手持無沙汰だったのかな。
「無駄、か」
「チッ! くそぉ」
 メイスの諦めたような声に続いて、ゲーラの舌打ちと悔しがる声が聞こえる。なにか企んでいたのかな。そう思いながら、少し軽くなった身体で寝た。


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