キッチンでの一コマ

「なんか、入れるものあったっけ?」
「ねぇな。グラタン皿で代用すっか?」
「でも、縦長の方がいいし」
「なにやってるんだ。お前ら」
「あっ、メイス」
「おう、おかえり」
 メイスがキッチンに顔を出すと、ななしとゲーラが気付いた。お玉を構えたり皿を持ったりなどしている。調理台は粉だらけであり、材料の残骸とボウルで占拠されている。(先に捨てておけ)と放置されている空の箱に、メイスは静かに突っ込んだ。これじゃぁ他の料理など作れない。荷物をダイニングのテーブルに置いてから、キッチンに入った。
「ケーキか?」
 チラリとボウルの中身を見て、メイスが推測をいう。
「チーズ? ケーキかな」
「そうか」
「ただのチーズケーキじゃねぇぜ。バケツプリンだ!!」
「どういうことだよ、それは」
 首を傾げたななしに頷く一方、胸を張ったゲーラに不信な目を投げる。げっと顔を歪めて口調も砕けた。説明をしないゲーラの代わりに、ななしが口に出した。
「普通のチーズケーキと違ってて柔らかくて、食べても美味しいんだよ」
「ほう」
「プルプルと震えてたところが、ガキどもにウケそうでよ。それでいっちょ作ってたってわけだ」
「そうか。で? 冷やすのか」
「それに困ってるとこ」
「普通は焼くところだけどな。それだとカラメルが焦げちまうだろう?」
「俺は今聞いたところなんだぞ? そこまで知るか」
 見せてみろ、といわんばかりにメイスが手を差し出す。ゲーラが渡すよりも先に奪った。二人の見ていたレシピを見る。材料から作り方へ移る前に、ななしが動いた。大きな鍋を抱えている。
「なにをしているんだ?」
「それ、オーブンに入らねぇだろ」
「蒸した方がいいかな、って。プリンの型に入れてもできそうだし」
「量を考えれば、少し時間がかかりそうだな」
「一回ずつ分けて作るか?」
 メイスは鍋に段を作ることを考え、ゲーラは一段で蒸すことを考える。二つの提案に、ななしはピタッと止まった。──複数の段を使えば、一度で蒸す量が増える。逆に全体の時間はかかるが、一段だとすぐに蒸すことができる──。手間と時間の二つを天秤にかけ、ななしは口を開いた。
「どっちの方が早い?」
 その問いに二人が口を閉じた。


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