村での刺繍(消火前)

 チクチクと針を進める。簡単なのから始めてるけど、どうしたらあんなレベルになるんだろう。不思議だ。(いっ、て)考え事をしていたからか、プチッと針が突き刺さった。指先が微かに痛い。血が滲むのを舐める前に、止まった。傷も塞がる。痛みも引く。こういうとき、バーニッシュの身体って便利だな。気を取り直して、針を進める。炭でスケッチした通りに縫えばいいから、楽ちんだ。少し手を休めて、足を遊ばせる。パタパタと前後に動かしてから、もう一度針を刺した。単色だから、まだ楽な方である。
 集中してたら、ヒョコっと影が落ちる。
「なぁに縫ってんだ?」
「服か?」
「カーテン」
 そう返したら「は?」と同時に返ってくる。振り返る必要も見上げる必要もない。ゲーラとメイスだ。自分たちの分は終わったんだろう。でも、私の分は終わってない。まだ時間がかかりそうだ。お喋りをやめて、縫うのに集中する。黙っていても構わないのか、二人が隣に座ってきた。ゲーラが左で、メイスが右に。ついでに横に垂らしたカーテンの端を、自分の膝に乗せていた。
「カーテン、か」
「村の連中の嗜好品かよ?」
「そういうこと。生活に彩りを加えたいんだって」
 だから、みんなで手分けしてやってる。そういうと、二人が「ふぅん」と返した。興味ない返事だな、おい。
「で? ガキんところにやるつもりか?」
「それとも、女性陣にか? 女の好みそうな柄でもある」
 ゲーラが手元を覗き込むし、メイスは布にスケッチしたのを眺める。うん、どっちも正解。どういおう。
「誰だと思う?」
「あー、エリーか?」
「いや、意外とミザンヌかもしれんぞ」
「詳しいね」
「あ?」
「は? そういうわけじゃないぞ?」
 三者三様に断られた。いや、あと一人は誰だ? 疑問に思いながら、針を進める。「付き合いで?」知ったのだろうか? と端的に聞いてみる。"Socializing?"以外の言葉が見つからなかったのだ。そうとだけ告げて、手を動かす。それからずっと黙ってたら、急に二人が距離を詰めてきた。ギュギュッと。なんで? キュッと脇を締めながら、手を動かした。


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