ラ・コロンブ=ドラフト

(あっ)
 なんかオシャレなパッケージがある。左右にあるものからして、恐らく缶だろう。ラベルにもちゃんと"COFEE"の文字があるし。多分中身もコーヒーだ。値段は、他のよりちょっと高く感じる。それほど味に自信とこだわりがあるということだろうか? ジッと見る。それに気付いたのか、メイスが戻ってきた。ヒョコっと、顔を覗き込もうとしてくる。
「どうした。なにかあったか?」
「いや、これ」
 気になるものを指差せば、それにメイスの視線が行く。私の見つけたパッケージを見るや「あー」と声を出し始めた。カートを押したゲーラが戻ってくる。ガラガラと音を立てて、怠そうに凭れかかっていた。
「なんだ、なんだ。もう買うモンはねぇぞ」
「そんなに懐ヤバいの?」
「いや、それがな」
 メイスが気を遣うように、私の見つけたものを指差す。それを見たのか、ゲーラも「あー」と呻く。なんだ、その都合の悪いようなものを見つけた顔をして。そんなになにかがあったのか? というのを聞くよりも先に、ゲーラが声をかける。
「飲みてぇのか?」
「んっ、気になるというか」
「飲みてぇんだな?」
 どうしてそうも、食いつくように念を押すんだろう。最後までいうことができず、コクンと頷く。すると、ゲーラがボリボリと自分の頭を掻き始めた。以前見た極東の島国で作られた探偵映画のように、大量のフケが出ることはない。メイスの方を見れば、同じように困っている。こっちは顎に手を当てている。ここまで困ったというか悩んでいる顔、滅多に見たことがない。
「どうしたの? いったい」
「いや。その、な」
「あー、実をいうとな。その」
 ななし、と呼んでから意を決したように話す。
「それ、結構美味いぜ」
「へっ」
 別に良いことじゃないか。それなのに、なんで腹を切るような顔で、苦い顔でいうんだろう。訳がわからない。
「その、ななし。よく聞け。味の感想を口にしたということは、既に口にしたあとだ」
「うん」
『言う』と『食事』をかけているのだろうか? よくわからない。
「だからだな、その。俺たちは、もう口にしている」
「うん?」
「あー、飲んだことあるってことだよ。それ、結構美味かったぜ」
「じゃぁ、いいんじゃない? 私も飲んでみる」
「あっ、おい」
「結構高いぜ、それ」
「大丈夫。自分で出すから。このくらいのは足りるはず」
「そうガブガブ飲めるようなもんじゃねぇだろ」
「俺たちがいえる立場でもないが」
 あっ、なるほど。既に制覇した後なのかな? それなら、色々と聞けるはず。
「これは?」
「結構苦い。エスプレッソだ」
「じゃぁ、これ」
「バニラ味の割にはぁ、いうほど甘くねぇ。どっちかっつーと、泡とカフェラテを楽しむくらいだ」
「あわ、って?」
「あぁ。こう、ふわっとクリーミーになる」
「飲んでみねぇと、わかんねぇだろ」
「これは?」
 同じデザインなのに、こっちはブルーだ。それを指差すと、二人が神妙な顔をする。というかさらに苦い顔をした。
「あー、そいつぁ」
「なんというか、形容しがたくはないが」
「あっ。ベジタリアン向け。そういうヤツらの好む味じゃねぇか?」
「いわれてみれば、そうだな。乳製品の方がいい。青いのは避けておけ」
「こくもつ」
"OAT"って、そういう意味だったのか。確かに、私もオート麦から絞った液体よりフレークの方が好きだ。オート麦のフレーク、美味しいし。ブルーのを避けて、別の色を指す。
「じゃぁ、これは?」
「チョコレートか。これは殆どチョコレートラテだな。コーヒーじゃない。まだ飲んでいない」
「これは?」
「ヤベェくらいのパンプキン中毒になっちまうぜ。スパイスが脳にガツンと効きやがる」
 なるほど。なんか、色々と試していたんだな。(いいなぁ)とほんの少しだけ、羨ましさが顔を出した。カチャっとコールドの扉を開ける。踵を上げて腕を伸ばして、どうにかチョコレートを手にした。ラベルを見れば"CHOCOLATE MILK"チョコレートブラウンとミルクチョコレートの色合いから既に、美味しそうだ。二本の腕が伸びる。
「買うの?」
「見ていたら欲しくなったんだ」
「キャラメル・ラテも美味いぜ」
 そういって、ガコンガコンとカゴに追加する。メイスはモカ・ラテで、ゲーラはパンプキン・スパイスだ。中毒性がすごいのらしい。「エスプレッソって」と聞けば「今はそんな気分じゃない」続けてゲーラが「またの機会にしとけ」と止めてきた。
「とりあえず、一本ずつ味わうのがセオリーだ」
「そうなんだ」
 カチャンとコールドの扉を閉める腕を眺めた。


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