突然のスコール(馴初め時)

 スコールに近い豪雨が突然起こる。世界大炎上の際に起きた地殻変動と一緒に、気候も変わった。バーニッシュが雨に濡れても、炎の意志が『もっと燃えたい』と叫ぶ。燃えれば、濡れた体も乾くだろう。その分、消費する体力も増えた。慌てて見えた廃墟に駆け込む。元はコンクリート造りのビルだろう。今は折れた鉄骨が丸見えで、穴の開いた床が天井代わりになっていた。壁もお粗末なものだ。炎の熱と勢いで壁が剥がれ、外の景色が見える。幸い地面と天井に続く壁の部分が、弾除けや風除けの代わりとなった。仲間の一人が、炎を出そうとする。ボッと火の粉は上がったが、中々つかない。全身が濡れ、体の芯が冷えているからだ。代わりにメイスが、炎を灯した。ボッと手の上で炎が強く燃え始め、比較的乾いた地面に落ちる。メイスの手を離れてもなお、炎は燃え続ける。自分たちへ力を与える炎の意志によるものだ。そこに仲間の数人が集まり、冷えた体を温める。「あったけぇ」「助かる」などとボヤく声を聞きながら、残りの姿を探した。ここへ入ったときは、一緒のはずだ。入り口へ近付く。簡単に一人目を見つけた。
「おい。そんなところで寒くないのか。ななし」
 声をかけて名前を呼べば、すぐに振り向く。メイスや仲間たちと違い、ななしの全身は既に乾いていた。どうやら、廃墟へ入ったと同時に全身発火したのらしい。然程疲れた様子を見せていない。それでも、冷えた場所へ立たせるのは身体に悪い。ななしの腕を掴もうとする。「おい」と声に出せば「ゲーラ」とななしが口に出した。
「はっ?」
「ゲーラ、あそこにいる。けど、こっちにこない」
 身振り手振りと片言を用いて、状況を伝えようとする。ななしの指差した方を見る。なるほど、ゲーラが一人離れたところにいた。どうやら輪に加わりたくないようである。ななしの頭を包むように、ポンポンと軽く叩いた。「わかった」との返事の代わりである。自身も全身が濡れたまま、ゲーラに近付く。ななしも少し、その後を追った。ゲーラは気付かない。全身を雨で濡らしたまま、ぼんやりと重苦しい曇天の空を見上げた。
 雨脚が強い。雨風がゲーラを正面から叩き付け、欠けた天井の端からポタポタと水滴を落とし続ける。乾かしてもまた濡れる悪循環だ。後ろに近付いた数人に気付かない。メイスが呆れたように、声をかけた。
「ゲーラ。そのままだと、風邪を引くぞ」
「あ?」
 返ってきたのは不機嫌そうな声だ。サッとななしがメイスの後ろに隠れて、顔を出してみる。ななしの姿に、ゲーラが気付く。機嫌の悪さを引き、小さく口を開けた。
「引くわけねぇだろ。風邪なんざ。俺たちは、バーニッシュなんだぜ?」
「いくら炎が俺たちを助けてくれるとはいえ、下手に体調を崩したら、それはそれで辛いだろ。少しは大事に取っておけ」
「へいへい」
 メイスの小言を聞き入れ、ゲーラは穴の開いた壁から離れる。瓦礫の山を下り、ななしに近付く。メイスの背から出たななしが、ゲーラへ腕を伸ばしていた。それに近付く。ななしの両手に頬を嵌めると、ボッとゲーラの全身が燃え始めた。焼殺でもなく、焼死でもない。バーニッシュだから、バーニッシュ同士の炎で燃えることはない。発火が終わると、ゲーラの全身がカラッと乾いた。簡単な除湿器である。水気が飛んだ全身を見て、ななしが尋ねた。
「みんなにも、する? 多分早い」
「あー、早ぇだろうな」
「俺にも頼む。まぁ、やるとしたらパァっと一気にやった方が早いだろうな」
「ぱぁっと、はやい」
「全体に燃え広がるよう、広い範囲でやれってこった」
「ほう」
「だからといって、ビルごと燃やすなよ? 簡単にバレちまう」
「それは困る」
「まっ、わかってるだろうと思うがよ」
 そういってななしの頬を触る。どんなに頬を揉んでみても、出てくるのは片言の言葉だ。会話の端々を聞き取って、どうにか話していることを掴もうとする。それがいじらしく感じて、またゲーラはななしの頬を揉んだ。両手で触る。この様子に、メイスが少しだけ呆れた。


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