ドーナツ(ゲーラ)

 ガサッとテーブルの上になにかが置かれる。顔を上げると、食べたいと思ったドーナツの袋があった。
「どーなつ」
「たっ、たまたまだ!! たまたま、その店に用事があっただけだ! だから、あー、クソッ。そいつぁ、ただのオマケだ!!」
 勝手に食え、とばかりにゲーラが腕を組んでそっぽを向く。なるほど。それなら有難くいただくことにしよう。体を起こし、ガサゴソと袋を開ける。あっ、ほしかったものばっかり。すかさず好物を取った。
「手ぇ、洗った方がいいんじゃねぇの」
「なにも触ってないから、大丈夫」
「ほーん?」
 平気だというのに。相変わらず疑い深いな。油を減らして、ヘルシー志向を目指したドーナツを食べる。うん、お腹に優しい。ゲーラとメイスと違って、私はそんなに油分のあるものを食べれない。リオは、うん。食べ盛りだから。そう言い訳をして、ポロポロ落ちた砂糖も食べる。この黄色い粒々が、最高に美味しい。
「美味ぇのかよ」
「うん」
 いつの間にか隣に座ってる。冷蔵庫に牛乳、あったっけ? なにか飲みたくなってきた。指に付いた黄色い粒々も舐める。あぁ、美味しい。懐かしい味も思い出してくる。チラリとゲーラを見る。ゲーラもこっちに気付いた。でも、見てるだけでなにもしない。
「食べないの?」
「腹ぁいっぱいだぜ」
「この量を、一人で食べろっていうの?」
「食べたきゃ食べな。残ったら、後で食ってやるよ」
「なにそれ」
 だったら、最初から食べればいいのに。でも横から盗られたくもない。とりあえず、選んだ分は食べる。食べ終えると、喉が渇いた。(やっぱり、なにか飲みたい)ちょっと離れて、キッチンに行く。冷蔵庫からミルクを、キッチンからグラスを。それをテーブルに置いて、座り直した。グラスに注いだミルクを飲み干す。もう一個食べようとしたら、ゲーラが寄り掛かってきた。
「なぁに?」
「なんでもねぇよ」
「変なの」
 そう返すと、ゲーラがグリッと肩に額を押し付けてくる。ついでに軽くホールドしてきた。(そういえば、お礼をいってないような)でも、いらない風に押し付けてきたし、頼んでもないし、どうしよう。これは、厚意によるもの? と思いながら、手にしたもう一つを食べる。モチモチしていて、美味しい。額を押し付けていたゲーラが、ムクッと顔を起こした。
 あっ、と口を開けている。
(変なの)
 そう思いながら、食べ差しのドーナツを出してみる。すぐに噛みついた。一口二口と食べて、モグモグする。食べ終えると、またもう一口食べた。(ヤバイ)ゲーラは男の人だから、食べる速度も速い。当然、私が思っている量よりも多く食べる。もう、食べたかったドーナツが一口しか残ってない。(ひどい)指に抓めるサイズも、ゲーラの口に食べられた。
 ちゅるっと舌がドーナツを掬って、指から話す。それも咀嚼して、食べ終える。ペロリと平らげると、急にキスをしてきた。(うすい)伝わった味は、最初に食べたものより濃くはない。当たり前だ。ゲーラの唇についてるのは、ドーナツの表面に降った砂糖。ドーナツ本来の味は、薄くて当たり前だ。舌を入れたとしても、まだ足りない感じになるだろう。
 ちゅ、とゲーラが離れる。ジト目だ。薄く目を開いて、こっちを見ている。私がなにもしないことを見ると、またキスをしてくる。今度は押し倒してきた。ドーナツが、離れる。
「どーなつ」
「まだ貰ってねぇからな。たっぷりと返してもらうぜ?」
(つまり、移動費と手間賃とドーナツ代で)
 しめて、いくらになるんだろう? そう考えて、財布を探す。視線を動かしたら、ドンッと顔の横に腕を置かれた。ゲーラが近付いてくる。
「金の問題じゃねぇ」
「じゃぁ、なに?」
「お前の気持ちの問題だ」
 といって、トンと胸を叩いてこようとしてくる。人差し指で、コツンと。ようやく、秘めていた「ありがとう」との言葉を伝える。忘れて、伝え忘れていた言葉だ。でも、それでも足りないのか、ゲーラが「まだ足りねぇなぁ」といって近付く。不足分を埋めるように、ちゅっちゅっとしてくる。それがなんだか、負債を回収するよりも甘えてくるような感じに思えた。ギュッとゲーラの背中を握る。心なしか、ゲーラの背中が満足したように動いた。
「んっ」
 ななし、とまた名前を呼んで強請る。またキスを強請ったものだから、ちゅっと返した。ゲーラの唇にリップ音を送る。ちょっと尖らせた上唇の先が触れてしまった。それでもまだ、ゲーラが「足りねぇ」っていう。いうから、どうすればいいのかわからない。ゲーラがしてきたみたいに、ちゅっちゅっ、とキスを送る。小鳥が嘴を交わすみたいにしてみたけど、まだゲーラが満足していないようだった。
「足りねぇなぁ」
 その底なしの欲望に、打つ手がなくなる。「じゃぁ、どうすればいいの?」と聞くと「今から教えてやるよ」と返ってくる。また押し返される。とりあえず、ゲーラが満足する方をお勉強することにした。


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