本を読み漁る

 ポロポロとビスケットのカスが落ちる。それを気にせず読み進めていると、隣にいるゲーラがポンッと頭を叩いた。
「それ、やめろ」
 注意をしてきた。それを無視して読み進めてると、今度はボスが注意をしてきた。
「本に落とすな。汚れる」
 質が落ちるということなんだろう。わかってます、ボス。そう答えて落ちたカスを自分の方へ寄せた。
「そもそも食いながら読むのをやめろ」
「そうはいったって」
 お腹が空くのは空くのだ。
「そっちは大丈夫なんですか?」
「僕は平気だ」
「俺も平気だ」
「俺だってイケますぜ!?」
「ゲーラのは殆ど進んでないじゃん」
「確かに」
「お前らぁあ!!」
 私とメイスに突っ込まれたゲーラが叫んだ。ちょっと読書のときくらい静かにしてほしい。
 パタンとボスが本を閉じた。
「しかし、いわれてみればそうだな。腹が空いてきた」
「そうでしょ!? やはり頭を使うと、人間お腹が減るものなんですよ!」
「そうか? ただ文字を拾うだけの作業なだけだろう」
「こっちはちゃんと読んでるの……!! なっ、なら! こういうときは紅茶とかコーヒーとかを飲むものだって、聞きましたよ……!」
「めっちゃウキウキしてんな」
「ただ食べたいだけだろ」
「そこ! 煩いっ!!」
 ゲーラとメイスのツッコミにそう叫んでしまった。
 とはいえ、もう用意はしている。ぶっちゃけまだ淹れ方がわからないからインスタントのだけど。
 沸かしたお湯をコップに注ぎ、ティーパックを入れようとする。
 その寸前で、パリンと割れた。
「なんだ? 今の音」
 向こうから聞こえる疑問の声に気付かれないよう、ソッと破片を片付ける。しまった、ガラスというものは急激な温度変化に弱かったか……。
 陶器で作ったカップを四つ取り出し、お湯を注いだ。
 カップが温まる間に、一種類ずつティーパックを出す。それからそれぞれのカップに入ったお湯を捨て、一つずつティーパックを入れた。
 お湯を注ぐ。四つのカップを両手で持って、三人の元に戻った。
「できましたよー」
「助かる」
「熱くねぇのか」
「器用だな」
 そういってメイスが立ち上がり、カップを持ってくれようとする。右手の分を差し出す。そうすればメイスが人差し指で支えてるカップを取り、次いでゲーラが中指で支えたのを取った。バランスが崩れる寸前で、ゲーラがカップを取ったのである。そして私は空いた手で、自分とボスの分を両手で持ち替えた。
「はい、ボス」
「助かる」
 そういってボスはカップを口元に寄せる。
「んっ、薄い……。まだ出し切れてないな」
「あっ、そうなんですか。今度気を付けます」
「へぇ、ただの熱い水じゃなかったのか」
「正確にいえば『湯』だ」
 ゲーラ、と。メイスが正しい名称をゲーラに教える。私も自分の分を一口飲む。ほんの少しの苦味があった。
「なにか、ティーパックを入れる皿がほしいな」
「へい、向こうからなにか取ってきやすか?」
「大皿を持ってくるなよ」
「ついでになにか食べます? 手元にはビスケットの袋しかありませんが」
 そういって、私が食べた小袋を差し出す。中身はまだ残っている。
「あぁ、助かる。それにしても、ジャムがあったら最高だな」
「じゃむ」
「じゃむですかい」
「確か、それは……」
「果実などを砂糖で煮詰めたものだ。美味いぞ」
「うまい」
 ボスの言葉を反復する。
「それ、自分たちでも作れますかね」
「材料があれば可能だ」
「なるほど」
「なら、我々がボスのために、なにか『じゃむ』とやらを一つ、作りましょうか?」
「ちゃんとレシピを見るならな」
 といって、ボスはまたもう一口、紅茶を飲んだ。
「うん、フルーティな味わいだな」
「なるほど」
 どうやらボスは、リンゴやイチゴの描かれた袋の方を引いたのらしい。
 ゲーラとメイスの方を見れば、ゲーラだけ微かに眉を顰めていた。
「にっが」
「なんか、酸っぱいな」
「それ、オレンジだ」
 そんなことをいいながら、調べものの最中にぶれいくふぁーすとを取った。


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