ウェディングへの吐精

 室内に煙がモクモクと立ち込める。煙草の煙だ。ゲーラとメイスが、深く息を吸う。久方ぶりに、ヘビースモーカーに戻っていた。プカプカと浮かぶ紫煙の中で、互いに願望を吐く。
「犯してぇ。あー、ドレス着たななしを犯してぇ」
「わかる。純白のドレスだと、最高だよな」
「おう。こう、何重にも裾がバァッと、広がっててよ」
「その重いドレスの裾を、こう持ち上げたいよな」
「わかるぜ。ドレスごと引き裂くっつぅか、ヴェールごとグシャグシャにしてぇ」
「あぁ、裸の背中に落ちるヴェールも、乙なもんだ。そこにぶっかけるのも中々」
「クる」
「あぁ、クるな」
 猥談は途切れず、話題の中心となるななしはいない。所用で出かけたのだ。暫く帰る様子はない。ここで耳に入れる第三者といえば、リオである。リオもまた、用事がない。燻る煙草の煙を眺め、クッキーを口に運ぶ。
「やればいいじゃないか」
 事情を知るリオは、簡単にいう。
「ウェディングドレスを着せて、さ」
「そうはいうけどよ。リオ」
「色々と準備というものがな」
「まぁ、そうだろうけど。でも、ここで腐っているよりはマシだろ」
 正論を吐き出し、クッキーを齧る。ポロッと食べかすが落ちた。一回り年下の正論に、大人の二人はぐぅの音も出ない。スパスパと煙草を吸う。
「んなこたぁ、ぐっ」
「簡単にいってくれるな。そう、何度も味わえるものじゃないんだぞ?」
「離婚と結婚を繰り返すからか? それで何度も挙式を味わえるとも聞くし」
「んなこたぁ、しねぇに決まってんだろ!?」
「俺たちがそういうことをする男に見えるか!?」
「いや、見えはしないだろうが、うん。意気地がないことは確かだろ」
「ぐっ」
「い、色々と準備というものがあってだな」
「じゃぁ、その準備とやらを、したらどうなんだ?」
 ポイっと最後の一口を頬張り、モグモグと口を動かす。奥歯に力を入れた途端、柔らかいクッキーは一気に粉と化した。二度目の正論に、やはりぐぅの音も出ない。ゲーラとメイスは、深く煙を吸った。
(んなこたぁ、いってもよ)
(こっちにも色々と我慢した分が)
(ロマンっつーのがあんだろ)
(やはり、こう、雰囲気というのが大事だろ)
 思うところがあるのか、神妙な顔になる。そのまま一人、熟慮の時間に入った。
(ふぅ)
 黙り続ける二人に、リオは溜息を吐く。立ち上がり、クッキーの空き袋を捨てた。
「ロマンスも大事にしろよ」
「うっ、わぁってるわ!」
「い、いわれるまでもない!!」
「そうかよ」
 ハイハイ、と受け流してリオは部屋に入った。残されるは、ゲーラとメイスである。何度目になるかわからない、煙草を口に咥える。
「んなこたぁ、いわれてもよ。こっちにもプランってぇモンが」
「ゲーラ。なぁ、お前」
 項垂れる声にメイスが呼び掛ける。それに顔を上げれば、同様に不安そうな顔をしたメイスがいた。
「なにか、考えがあったりしないか?」
 まるで確認を取るようである。それにプカプカと紫煙をくゆらせ、そっと視線を逸らした。それに答えることは、難しい。
「オメェの方は、どうなんだよ」
「俺か。俺の方は、そうだな」
 話を振られ、吸った煙草を灰皿に置く。トントンと指の腹で吸い口を叩けば、先端にしがみ付いた灰が落ちた。薄い唇から、実現性の薄い望みが語られる。それを聞きながら、ゆっくりとゲーラは紫煙を吸い込んだ。毒の煙が肺に染み渡る。フゥと深く静かに紫煙を吐き出すと、メイスが視線を寄越した。灰皿に座らせた煙草に指をかける。
「そっちはどうなんだ? ゲーラ」
「あん? 俺かぁ」
 管を巻きながら、ゲーラも話し始めた。


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