甘え上戸(メイス)

 誰だ、飲ませたヤツは。おい、出てこい。ゲーラと二手に分かれ、ななしを連中と待機させ。帰ってみれば、この始末だ。(ゲーラから聞かされて、コイツに酒を飲ますのは危険だと知っているはずだろうに)どういう了見だ? 強く睨みつければ、ななしと一緒にいた連中は震え上がった。
「い、いや、勘違いしないでくれよ!? ただ、お前たちを思ってだなぁ」
「は?」
「うっ!! その、だなぁ」
「そっちがどう思おうが、関係ない。だが、俺たちのことに口は出すな。金輪際だ!」
 そこまで強くいえばわかったのか、一同全員「おう」と頷いた。チッ、気分がワリィ。舟を漕ぐななしを引き寄せ、立たせる。だが、酒で酔っているのか。ななしはふらついた。(クソッ。ムカつくな)冷静に客観視しても、己の怒りがここまで沸き立つとは。フゥ、と息を吐く。横に抱えれば、むにゃむにゃとななしが微睡み始めた。
「おい、寝るな。まだ晩飯の時間があるぞ」
「うぅ。やだぁ、いらない」
「そういうな。少しは食え。一口だけでも入れてみろ」
「うー」
 クソッ、本格的に寝ようとしやがる。軽く体を揺さぶり、ななしを起こしてみる。が、揺り籠効果なのか、ななしは余計に微睡むだけだ。クソッ! 安心しきって寝るんじゃねぇよ。
「ゲーラたちが、残りを見つけて帰ってくるんだぞ? せめて、それまで寝るんじゃない」
「メイス! こっちの資材は、って。あっ」
 おい。なんだその反応は。ギロリと睨み返せば「す、すまねぇ」と詫びを残して消える。あぁ、俺のメンバーに入っていたヤツだったな。今の顔。アイツには悪いことをしてしまった。あとで謝っておくとするか。眠りこけるななしを揺らす。今は、コイツを起こすことが優先である。
「おい。起きろ、寝るなって」
「ん、ぅ。めーす、べっど」
「ベッドはないが、炎で作る擬似的なマットレスはあるな。ソイツで眠ってみるか?」
「うー。それ。とっても、背中。ぞわぞわする」
「そりゃぁ、な。なんだって生きている炎だ。そりゃ動く」
「うぅ、うぉおた?」
「スライダー、だな。ウォータースライダー」
「うぉーたぁ、すらい。ふぁ」
「おい、寝るな。もう少し起きていろ。寝ると、取って食っちまうぞ?」
「ん、がおぉ?」
「ガオー、だな」
 ハハッ、と笑って軽く威嚇してみる。ななしの鼻に向かって、噛み付くように口を軽く開けりゃぁ、ななしも開けてくる。だが、口が小さい。そこまで眠いのか。(フッ、可愛いヤツめ)愛いらしさを感じ、寸前で気付く。あと数センチで、キスをするところだった。
(しま、った)
 恐る恐る、顔を上げる。俺の髪が頬に触れたのか、ななしが軽く身じろいだ。このときばかりは、眠りこけた頭に感謝である。
 フゥ、と静かに息を吐く。まぁ、これくらいは許されるだろう。軽く額にキスを与えれば、ななしが薄らと目を開いた。今にも寝そうである。重く動く瞼にさえ、愛いを感じてしまう。
「フッ、起きろ。朝だぞ」
 軽く冗談をいってしまえば、本気で信じる。「えっ」と驚き、体を起こす。上手く起き上がれないのか、俺の腕を掴んで上体を起こした。キョロキョロと辺りを見渡し、時刻を確認する。朝焼けもない。夕焼けもない。完全な夜である。また、ななしの瞼が重くなる。
「なんだ、まだじゃん」
「ゲーラたちは、あともう少しで帰るがな」
 そう伝えれば、ななしが俺の胸に顔を埋めた。


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