かいこ(ゲーラ)

 ぷかぷかと煙草の煙を遊ばせる。そういえば、と吸い始めた頃を思い出した。(医者に止められてたもんなぁ)バーニッシュになり、プロメアと共震し、肺の負担が軽くなった。走っても息切れすることはない。身体に力がみなぎる。そうして、医者から一生「肺に傷がついてさらに病状が悪化する」とまでいわれた煙草に手を出した。吸い続けて、今。プロメアと共振した名残りでか、肺は化け物になる前の状態へ戻っていなかった。ただ、健常者の肺に近いものが、自分の体内に残るのみ。それも毒の煙で少しずつ、肺胞も犯されていくが。ななしがひょっこりと顔を出す。「もう、また吸って」と顔を歪める。よくよく考えれば、ななしが副流煙を吸う以外に被害はないはずである。ふぅ、と吸った煙を吐きかけた。ゲーラのそれに、ななしはギュッと目を瞑る。「もう。目が染みるって」不満を吐き出すが、離れる気配はない。離した煙草の吸い口を唇に戻し、フィルターを支える。舌で端を突くと、唾液に煙草の味が微かに染み込んだ。
「そんなの吸うの、身体壊しちゃうよ」
 ──副流煙も避けるように。万が一、煙を吸い込んだ場合は今より走ることも難しくなるかと──。
 ななしの言葉に、昔医者からいわれたことを思い出す。向こうは医学的根拠に基づき、冷徹に結果を下したことに対し、こっちは反対だ。医学的根拠はある癖に、強制力を持たない。いや、試行しようとも思わない。
「オメェも、飽きねぇなぁ」
「ゲーラも。それ、飽きないね」
「飽きるつもりもねぇよ」
「中毒性高いのに?」
「おう」
 正直にいえば、ななしの方だ。煙草を吸えば、構ってくる。構わずに吸い続ければ、行動に移す。今、ななしが背伸びをしてゲーラの煙草を挟んだ。慣れていないんだろう。ななしの指に沿って、煙草の細い胴体に凹みができる。踵を下ろし、両手で向きを変える。ゲーラへ灰を見せると、自分で咥え始めた。
「やっぱり苦い」
「慣れてねぇんだろ」
「美味しくないよ」
「慣れたら美味く感じンだよ」
 離したななしの煙草を奪い、火元を潰す。手すりに灰が円状に小さく広がった。その落ちる視線を拾い上げ、ゲーラは口を開ける。「あ」と開いた歯の隙間から見える舌に、ななしの目が戻った。くっつく。顎を固定させたまま、舌に染み込んだ味を擦りつけた。ななしの唾液と混ざり、さらに薄くなる。また角度を変えて、口内を味わう。溶けた煙草の味を捨ててななしの舌を追えば、くっと下唇を押された。ななしの顎が指を離れ、ゲーラの唇に小さく身を寄せる。それから、肩を押した。名残惜しさが胸に落ちる。小さく身を引いて顔を離すと、軽く濡れた唇に吸い付いた。上唇、下唇と順に食んでは吸い、軽く歯を立てる。それにななしは「ん」と声を上げた。
 ちゅぱっと音が鳴る。唾液で濡れた口で、ゲーラはいった。
「なっ、美味ぇだろ?」
「わかんない」
 ふくれっ面をしたななしの口に、また噛み付いた。


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