フラワームーン(消火前)

 今日のはフラワームーンというのらしい。村のみんながいってた。となや天体に興味のある子が主に。見張りをしながら、ぼんやりと思う。望遠鏡で覗けば、お月様がさらに大きく見えた。
「なんか、光ってる」
 そう呟けば、一緒に見張りをしているゲーラが「あ?」と返した。
「当たり前じゃねぇか、月は光るモンだぜ」
「そうだけど、さらに明るいというか」
 どういえば、と悩んでいるとゲーラも見上げる。月の周りが明るいことに気付いたのか「あぁ」と横で頷いた。
「なるほどね。確かに明るいじゃねぇの」
「夜の散歩にはちょうどいいけど、隠れて歩くには大変かも」
「逃げ出すんじゃねぇぞ」
「出さないよ」
 そもそも、どこへ行けばいいのだろうか? 望遠鏡を戻そうとすると、手を握られている。いつのまに。気付かなかった。少し腕を引くけど、全然離してくれなかった。
「なに?」
「離したら、どっか行っちまうだろ」
(それは)
 離れるときもあるだろう。単独で動いた方が探りやすいときもある。(それをどう、伝えたら)言葉の表現に迷っていたら、手を握る力が強くなった。
(どう、したらいいんだろう)
 握るゲーラの手を見るけど、離してくれない。これじゃぁ、なにかあったときにどうしたら。「見張り」と伝えれば「わぁってるよ」と返される。本当に、わかってるんだろうか? 見上げると、ゲーラの後ろからメイスが見えた。
「あっ」
 物影に隠れた。どうやら、もうそんな時間なのらしい。ゲーラも気付いたのか、振り向いてメイスを呼んだ。
「メイス」
 そう呟くと、本人が現れた。基本、見張りは二人で行うもの。けど変な不規則性があって、半々で交替することがある。だから、全体的な数で見ると奇数。ゲーラが先に起きて、メイスが後にくる。私が見張りを終えたら、次の二組がくるのらしい。それで空いた時間に色々としているのらしい。(これ、もしかしたらゲーラも)同じかもしれない、と思ったら手を離されていた。パッと、自由になれる。
「もう交替の時間か?」
「あぁ。アイツらが呼んでいたぞ」
「あー、頼まれてたことか。わかったぜ」
 ポンポンと頭を撫でてから去っていく。なんというか、先に帰られると疲れる。ドバっと、張り詰めたのが一気に体にきた。「不服か?」と交替したメイスが隣に座る。「そうじゃなくて」と今の気分を伝えた。
「一人だけ帰ると、羨ましくなる」
「そういってやるな。あれでもまだ仕事が残ってる男だぞ」
「まだ、みんな起きてるの?」
「あぁ、マッドバーニッシュの連中はな」
「全員?」
「ゲーラに頼み事をした連中だけだ」
 他は寝ている、とメイスが伝える。そうなんだ。ゲーラはゲーラで、大変そうである。
「メイスは?」
「俺か? 区画の整理とか、色々とある」
「そっか。住人が増えたんだっけ?」
「また難民を受け入れたり、救出したりしたときに向けてだな」
 そのときに入れるスペースがないと困るだろう、と付け足してきた。確かに、そうかも。広場で寝てくださいね、と寝袋を渡すのもあんまりだと思うし。
「じゃぁ、物資の調達をまたしなきゃ」
「そういうことになる。他にも入用だしな」
 といって、目を伏せる。その先を見ると、なにもなかった。手を動かしてみるけど、床にない。なにも落ちてなかった。それをメイスが目で追ってたものだから、軽く手を振ってみる。
「なんだ」
「いや、別に」
 私の気のせいというか、勘違いでもあったようだ。手を降ろすと、メイスが視線で追ってくる。ジッと私の手を見ると、スッと伸ばしてくる。下から差し込むと、そのまま持ち上げてきた。手の平で包んで、私の手を支えるだけ。
「どうしたの」
「いいや」
 なんでもない。とでもいいたそうな口だ。さっきと逆みたいじゃないか。そんなことを思いながら、望遠鏡を掴み直す。片手でレンズを覗けば、相変わらず月が見えた。大きさは変わらない。もしかしたら、知ってるかも。
「月、とても明るいね」
「ん? あぁ、そうだな。特に不審な点はない」
「あの周り、ブワッとなってる。なんだろう」
「あぁ、なんだ。あれの名前を知りたいのか? 確か」
 といってから、口を閉じる。なんだろう。考え込んでいるのだろうか? チラリと見れば、考えてる顔をしていた。空を見上げている。
「ヘイローだ。太陽や月でもあんな感じのが見えるだろう?」
「確かに、見たことがあるかも」
「昼間なら日暈、夜なら月暈や白虹とも。勿論、昼間に出る太陽と夜に出る月を指してだ」
「へぇ」
「あと」
 メイスの口から、色々な知識が出てくる。やっぱり、メイスは物知りだ。「あとはミルクムーンとか、二回目だとブルームーンともいうらしいな」
「へぇ、飲めるの?」
「月からミルクが降ってきたら、いいのにな」
 もしかして、ゲーラもメイスと同じくらい子どもの相手が得意かも。そんなことを思いながら、メイスの話を聞いて時間を潰した。


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