イライラ苛立ち(ゲーラ)

 理由はわからないが、ゲーラはとにかく苛ついていた。別にななしがなにかしたわけでもない。メイスがなにかしたわけでもない。無性に意味もなく、ゲーラはムカついていた。
「クソッ」
 頼みの煙草も、吸う気分じゃない。寧ろ吸っても苛立ちは解消できなかった。ソファに寝転がる。帰ってきたななしが、無人と思った家に挨拶をした。「ただいま」と呑気に声をかける。それに舌打ちをした。
「チッ」
「あ、ゲーラじゃん。どうした」
 の、という前に引っ張る。「珍しい」「いたの」の驚きを含んだ声色に、腹立たしさが増した。唇を浚い、視線を自分へ釘付けにさせる。予想通り、ななしの目が丸く開いた。
「えっと、どうしたの」
「別に」
「『別に』じゃわからないよ」
「なんでもねぇっつってんだろ」
 そういい、ゲーラはまた浚う。ななしの襟首が引き寄せられ、首を絞めつけられる。息苦しさで目を閉じれば、ゲーラの唇がくっ付いた。唇が圧迫し、少し解放されると角度を変えてくる。重なり続けていくと、吐息の熱で湿っていく。だが、互いにそういう気分になれなかった。
「なに? 寂しいの?」
「別に、そんなんじゃねぇよ。『なんでもねぇ』っつったろ」
「そんなに口寂しいなら、飴か煙草をすればいいのに」
「あ? 普段から吸うなっつぅ人間が、なぁにいってんだ」
「だって」
 ななしが口を開くよりも先に、ゲーラが鼻梁を擦り合わせる。軽く匂いを吸い込めば、いつもと変わらぬ匂いがした。小さく口を開けて、唇を合わせる。離れた一瞬で、ななしは言い直した。
「そこまで苛々してたら、いつも吸ってたような気がしたから」
 それにゲーラの口が閉じる。無言で、ななしの体を反転させる。自分の横になったソファへ寝転がすと、馬乗りになった。
「狭い」
「ワガママいうんじゃねぇ」
「ど」
 どっちが、とななしが反論を口にする前に、抵抗を塞いだ。話す途中で開いた隙間に舌を入れて、浅く口内を探索する。少しだけ触れると、大人しく引き下がった。
「そういう気分じゃ、ないのに」
「うるせぇ」
「ゲーラも、そういう気分じゃないじゃん」
「うるせぇっつってんだろ」
「帰ったら、ゆっくりしたかったのに」
「後に回せや」
「やだ」
「うるせぇ」
 反抗の押し問答が、口だけでなく手に表れる。バシバシと肩を叩く手を無視して押し倒す。圧迫して隙間がなくなると、ようやくななしは黙った。
 口を塞ぐ。苛立ちの解消を所有物のマーキングを施すことで実行した。ななしの手が叩く。強く奥へ圧迫をかければ、ななしの爪がゲーラの背中に立った。


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