生理痛がつらい

 プロメポリスは意外と福利厚生もしっかりとしていて。生理で苦しめば、病気として休めるのらしい。「ちゃんと病院行けよ」といわれたけど、どこに行けば。調べる余裕もなく、ベッドに潜り込む。そういえば、男所帯だった。探すとしたら、自分で探すしかない。スマートフォンを引き寄せて、インターネットを開く。
(病気、生理、で探せば出てくるかな)
 それか『月経』だっけ? タップしてスクロールをすれば婦人科が出てきた。おーびー、じーえぬわい。検診の際は、自分の口で説明する必要があるのらしい。しまった、その辺りを説明する単語について、知らない。検索して頭の中に入れるが、文章の構成に追い付かない。頭がボーッとして、痛みで眠気が襲う。もぞもぞと枕に頭を置き直す。スゥっと眠り込んだら、人の話し声が聞こえた。なにやら、ワイワイと騒いでいる。
(いったい、なんだろう)
 カタンという音に目を開ければ、全く違う光景が見えた。
「あ」
「なんだ、起きたのかよ。まだ寝てりゃぁいいのに」
 つれぇなら、寝た方が早く治るぞ。といって、ゲーラがクシャクシャと撫でてくる。部屋にいた人物が違った。なぜか、ゲーラがいる。
 音のした方を見ると、水の入ったグラスとピルケースがあった。なんか、薬局で売ってるようなアレ。
「それって?」
 風邪薬? 風邪薬で、少しは良くなるんだろうか? 箱を引き寄せたら「いや」とゲーラが目を逸らした。
「あー、それで今回休んだんだろ? んなに重ぇなら、それ飲んだ方が楽になるだろって」
「ぴーえむ、えす?」
「おう」
「くらんぷ?」
「腹が痛ぇのか? キリキリ?」
「うん」
 なるほど、通じるようだ。とりあえず、婦人科に行ったときは"Cramp"と伝えれば、大体伝わるのらしい。あとは、出血量。
「まぁ、バーニッシュ時代から結構辛かったもんな」
「うん」
「そろそろ、病院行った方がいいんじゃねぇのか? その方が、楽になるだろ」
 確かに。その通りだ。この辛さからオサラバできるのなら、医療費を払うこともやぶさかではない。はぁ、と溜息を吐く。息をしても、下腹が痛い。キリキリと、管みたいなのがある方から痛む。
「顔色も悪いしよ。確か、俺らといたときはなかっただろ」
「うー」
 ん? と枕に顔を埋める。少しは、温めた方がいい。体を丸めると、ゲーラが撫でてきた。背中を擦られる。
「俺が、マッドバーニッシュのリーダーやってたときがあったろ? そんときのだ」
「あー、確かに」
 確か、リオがボスになって村ができて。それでちょっと楽になった頃から始まったんだった。確か、その辺りのことは、村の女性に教えてもらったような気がする。
「病気になったら、困るだろ」
「うん」
「俺とメイスのどっちかが、付き添うからよ」
「お腹いたい」
「診断もらって薬飲めば、少しは楽になるだろうぜ」
 そういって、私の腰辺りを擦ってきた。あ、楽になってきた。それにしても、どうして病院行くように勧められているんだろう。
「でも、どうやって話したらいいのかわからない」
「あー、他にどっか、つらい症状とかねぇのかよ?」
「お腹いたい」
「それ以外に」
 血が足りない、だるい、重い、血が足りない。それと体がだるいに、とても重い。それくらいしか見つからない。
 ボーッと考えてたら、メイスが入ってきた。
「どうだ?」
 それにゲーラが振り返る。
「あー、ダメだな。楽になってねぇ」
「そうか」
 口でやり取りはしてるのに、体の方は向いていない。ゲーラは私の腰の背中の部分を撫でるし、メイスは足元に座った。ジッと、こっちを見ている。
「薬は飲んだのか?」
「まだだな」
「飲ませろよ。それとも、食前じゃないからか?」
「つらいときに飲めって、書いてあるぜ?」
「今だろう」
 そのツッコミが最もなのか、ゲーラが黙った。ジッとメイスが見つめる。私の枕元に手を伸ばして、見ていたピルケースを眺めた。
「痛いときに飲めって、書いてあるぞ?」
「ぐっ」
「まぁ、空腹を避けろとは書いてあるが」
「だ、だろ!?」
「で、ななしは食える状態なのか?」
 スッとメイスの視線が私にきた。黙って首を振る。それよりも、痛みが酷いくらいだ。
「そうか」
 ふぅ、と頷いてポケットを探る。手を入れた先から、一粒のチョコレートを出した。包装紙に巻かれていて、キャンディ状だ。
「ほら、口を開けろ」
 あ、と開く。メイスの出したチョコレートが口の中に落ちて、蕩ける。
「これで飲めるな」
「無理矢理じゃねぇか」
「痛みを緩和する方が先だろう。それより、他に症状はないか」
 また、ゲーラと同じことを聞いてくる。『症状はないか』で、思ったことを思い出す。けど、言葉にすることは難しい。(どうやって、組み立てるんだっけ)"blood","pain","DARUI"──あ、最後のちゃんといいきれてない。言葉が思いつかない。うとうとと枕に頭を落としてたら、髪を上げられた。ひやりと額に、冷たい。
「おい」
「熱はないな。代わりに、顔色が悪い。貧血か?」
「ひんけつ」
 ってなに?
「なにそれ」
「血が足りなくて、苦しむことだ」
「それ」
 メイスの簡潔な説明に、頷く。だとしたら『ひんけつ』で伝わるだろう。(ひんけつ)あにみあ、発音を繰り返す。「他にはないか」と頭も撫でてきたので、頭痛も思い出した。
「あたまいたい」
「そうか」
「上手く、考えられない」
「ボーッとするってことか?」
「んー」
 そういうことなんだろう。ゲーラの質問に、困る。またお腹が痛くなったので、体を丸めた。背中側の腰が痛い。離れたゲーラの手が、またそこにやってきた。足元に戻ったメイスが「ふむ」と頷く。
「あとは、下腹部の痛みか」
「んー、っつか、やけに詳しくねぇか?」
 メイス? とゲーラが視線で尋ねたような気がした。それに、メイスが沈黙で返しているような気がする。とても頭が痛い。ピルケースを探すけど、どこにもなかった。
(くすり)
「くすり、って?」
「あ? ここにあるぜ」
 ヒョイッと拾い上げて、ゲーラが渡してくる。いったい、どこにあったんだろう。蓋を開けて、一粒取り出す。一粒でいいのかな。わかんない。ポイっと口に入れれば、喉を通らなかった。異物感が強い。
(みず)
 捜そうとしたら、ゲーラが渡してくる。けど、位置が高い。もぞもぞと起き上がって、座り直した。また、血が出てくる。
「ありがとう」
「いいってことよ」
「とりあえず、温かくしていることだな」
 布団を掴んで、かけてくる。とりあえず、トイレに行かないと。ベッドから出ると、二人が両側から支えた。
「歩けるよ」
「さっきふらついてただろ」
「どうせついでだ」
 そういってゲーラは腕を自分の首へ回させてるし、メイスは片手にグラスを持ってる。私の飲み干したものだ。
(仕方ないなぁ)
 確かに、途中で蹲るかもしれないし。「ちょっと、バスルーム使うね」といえば沈黙が返ってきた。
「あー、着替え。持ってきた方がいいか?」
 そのゲーラの気遣いに、ちょっとどう答えていいのか、わからなかった。


<< top >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -