イースターの話(隠れ里での話)

 とある国にあるケーキを模したものが、これらしい。そこは冬将軍の名で有名なところだ。トゥインキーでスポンジの代わりをしたからか、メイスが「東西の平和条約だな」と感想を零した。どうやら、トゥインキー自体が、この国独特のお菓子なのらしい。横でゲーラが「食わねぇのか」と急かしてくるので、一口頬張ってみた。
 白いメレンゲのカバーが、咥える場所を迷わせる。「ほら、そこのところとか。美味そうだぞ」そうメイスがドライフルーツの乗った場所を指す。確かに、クルミとレーズンも一緒で美味しそうだ。小さく口を開ける。「それじゃぁ、ろくに食えねぇだろ。コイツを味わうにゃ、こうだ」と自分から口を開けてきた。大きい。それに倣って、私も開けてみる。このままだと、大きな一口が転がりそう。「美味いぞ」そうメイスが駄目押しをしてきたので、パクッと腹を決めて食べてみた。
(うっ! とても甘い)
 キンと歯に染みる甘さだ。甘すぎて、歯の神経がちょっと嫌がってる。ギュッと目を瞑り、頬を押さえる。すると、ゲーラが足を組み直した。ちょっと、私の方に足を向けないでほしい。
「まぁ、そうなっちまうか」
「そうなるだろう。材料が揃えば、本場ので用意できたらしいが」
 まぁ、今の環境だと無理だろう。と、メイスがしみじみしていた。なんか、昔を思い出しているような雰囲気だ。「食べたことあるの?」と聞けば「ない」と返ってきた。
「っつか、付いてんぞ」
「んっ」
 ゲーラの手が伸びてきて、頬を拭ってくる。ペロッと舐めたのを見ると、メレンゲだ。そんなにメレンゲが好きなのだろうか? あっと口を開いてみるが、体が二口目を拒否する。けれど、メレンゲの味を試しに食べてみたい。
「無理して食べなくてもいいぞ」
 メイスがトゥインキーのデコレーションに、手を伸ばしてくる。でも、もう一口を食べてみたい。メレンゲ、メレンゲだけなら。小さく口を開いて、ナッツを口に入れる。木の実は美味しい。付着したメレンゲは泡みたいに消えたし、砂糖の味が微かにした。
「おいしい」
「そりゃぁ、美味ぇのを選んだからな」
「料理の美味い人間や職人が担当したからな。当然だろう」
「そうなんだ」
 確かに、そういったのが得意な人はいた気がする。多いような。(メレンゲだけを食べていたい)指で掬ったら「食えよ」とゲーラが本体を指した。
「食べる?」
 逆に聞けば、二人が渋い顔をする。「お腹いっぱい?」と聞けば「まぁ」と曖昧に返ってきた。
(食べるしか、ない)
 せっかく作ってくれたものだ。無碍にするわけにはいかない。もう一度意を決して、口を開ける。体は嫌がってるけど、もしかしたら。むぐっと一口頬張ったら、またあの甘さがやってきた。
「あまぁい」
「けどよ、中のクリームは美味ぇだろ?」
「それと記念品だ」
「『記念品』?」
「イースター・エッグだ」
 そういって、ポンと卵型のを出してきた。「手」というので、手を差し出す。メイスの手にあるものが、私の手に置かれた。小さな卵型で、線の入った模様をしている。ついでに色付きだ。
「これは? イースター・エッグの探し物に使ったんじゃないの?」
「別物、別で作ったヤツだ」
「別に全部が全部宝探しに使うわけじゃねぇぜ?」
 中には自分用に作ったヤツもいるぜ。そういって、ゲーラも一つ出した。心持ち大きめのサイズだ。ギザギザの模様が入ってて、こちらも色付き。けど、ちょっとところどろこ色が食み出てるのがある。
「そうなんだ」
 じゃぁ、村の中で卵を置かれてるのを見たのも、そういうことなんだろうか?
「あれとか、対象にならなかったよね? 宝探しの。えっと、置き物? みたいなのだから?」
「あ? あー、連中の飾ってるヤツのことか? まっ、それ用に作ったって話は聞くぜ」
「良くできたものだと、裏で取引があったと聞くが。まぁ、よくあることだな」
 人の営みにはよくあることだ、とメイスが再度いう。そうなんだ。メレンゲだけ食べていると、半分の量でお腹いっぱいになる。
(どうしよう)
 下はスポンジ。残り半分はまだ残ってる。ボーッと食べきれない量を見てたら、横からガブッとゲーラが食べてきた。
「あっ」
「ん、やっぱ甘ぇな」
「お前な。せめて一言いってからにしろ」
「んなこたぁいったってよ。どうせ、黙るだけだぜ?」
「まぁ、否定はせんが」
 私もできない。どうするか判断に困るからだ。そうしているうちに、メイスがメレンゲのある方を割る。どうやら、白い方を食べるのらしい。見てる間に、パクパクと口の中に消えていった。
(速い)
 ゲーラの方を見れば、もう指を舐めている。私の、イースター風に仕上げたトゥインキーはなくなった。代わりにイースター・エッグがあるだけだ。
(これ、どうするんだろう)
 ──バーニッシュの炎は、バーニッシュの意識が残る限り存在し続ける。
 ──氷で封じられることもあるけど、上手くすれば他のバーニッシュの炎をコントロールすることも──。そこまで考えて、やめた。
 どうにも、この卵を壊すことに気を引けたからだ。「どうしよう」もう一度呟く。解決策が見つからないからだ。すると、ゲーラがいった。
「まっ、飽きたら消えるぜ」
「俺たちが満足したらな」
 そう伝えると、立ち上がった。私も立ち上がる。村に戻ると、まだ子どもたちは見つけた卵を見せ合っていた。あ、私の作ったエッグ。どうやら、外れ賞として数えられたのらしい。
「お前の作ったモン、数での勝負で使われたらしいぜ」
「物量と質の二つで勝負ができあがったのらしい」
「ふぅん」
 役に立ったのならなによりだ。そう思って眺めていると、二人からポンポンと頭を叩かれた。
(なんで?)
 そう思いながらも、協力してくれた大人たちにお礼をいいにいった。


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