買った食糧を片付ける(メイス)

 買い込んだ食糧をテーブルの上に置く。これでなるべく節約をすれば、数十日はさらに保つと思う。テレビから、さらに外出禁止を要請する期間が延びたことを告げられた。「保つかな」ふとボヤいてしまえば、メイスから首を振られる。「さぁな」といって、手にした缶詰を置いた。
「通販で頼むのも有りだが、問題は運送会社だろう」
「それもダメなの?」
「ストップしている場合もある。幸い、金はばら撒かれていることだけが救いだが」
 はぁ、と溜息を吐く。働くな、外出するな、家にいろ。引きこもれ。それが四か条が、国が出してる命令だ。銀行に行ってないからわからないけど、通帳にはそれぞれお金が振り込まれているという。けど、使わなければ意味がない。苦労して監視の目を潜り抜けて買ったのも、これだけなのだ。
「お金の他に、食べ物の方もほしいよね。非常食でもいいから」
「できれば美味い方でお願いしたいくらいだな。バーニッシュ時代に嫌ほど食べた」
「飽きたの?」
「思い出すだけだ。あの頃をな」
 そういって、肩を竦める。確かに、たまに食べるとあの頃を思い出すこともある。「故郷の味?」と聞けば「それに近いかもしれんな」と笑われる。けど、嫌なニヒルの笑いじゃなくて、フッと柔らかく微笑むような、そんな感じだ。
(変なの)
 そう思いながら、片付けを手伝う。新鮮な野菜と果物は冷暗所へ、缶詰はあそこに。キッチンを見ると、包丁とまな板があった。その上に、野菜を切ったのがある。
「あれって?」
「あぁ、長期保存をするために仕込んでいるんだ。冷凍庫に入れときゃ、少しは長く保つからな」
「ふぅん」
「解凍すれば、萎びた野菜とはおさらばできるぞ?」
「いいな、それ。羨ましい。食べてみたい」
「お前も食べるんだぞ」
 呆れたように笑われて、ポンポンと頭を撫でられる。叩くと、背が縮んじゃう。ただでさえ背が高いのに。叩くメイスの手を掴む。グッと止めようとすると「フッ」と笑われた。
「なにそれ」
「なにがだ?」
「もう」
 知らない。プイッと顔を背けると、さらに後ろで笑われた。「ハハッ」と。本当、メイスはよく笑う。ゲーラと一緒のときだと、あまり笑わないのに。
(よく笑うね)
 といおうとしたが、よくよく思えば違う。単純に私が見てないだけで、二人のときには同じように笑っているのかもしれない。そう思うと、なんだか不平等に思えた。
「本当、男に生まれた方が良かったのかも」
「は?」
「なんでもなーい」
 聞き返したメイスに話を濁してぶった切る。この話はお仕舞なのだ。カタンと缶詰を片付ける。棚を閉めようとしたら、急に暗くなった。頭の上から、声が降る。
「逆に男になると、困るのはこっちの方なんだがな」
 そんなことを告げるメイスに、どう返せばいいかわからなかった。


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