不要不急の外出(ゲーラ)

 元々、マッドバーニッシュは反社会的な集団だ。なので政府から「外出するな!」といわれても、食糧が尽きてしまったら出る必要がある。積載量が一番多いゲーラのバイクに乗る。街の中は静かだ。いつもごった煮返す人の波は見当たらないし、腹を空かした鳩が私たちを目がける。それをゲーラは、慣れた手付きでヒョイヒョイと躱した。
「慣れてるの?」
「ばぁか。フリーズフォースにやられたことを忘れたのか?」
 なるほど。あれを利用したテクニックと。そんなことを思いながら、スーパーに向かった。警察やその働きも担う元フリーズフォースの連中の目を掻い潜る。けど、スーパーは閉まっているばかりだった。コンビニも駄目だ。モヌケの殻である。
「あーあ」
「ヤベェな。想像以上に切羽詰まってたみたいだぜ?」
「どうしよう。そこら辺の鳩でも狩っちゃう?」
「腹ぁ壊しちまうぞ?」
「病弱のゲーラにいわれたくな、あっ。ならどうして出ちゃったの?」
 病弱なら、今の事態だともっとヤバくない? そう思ったら、ゲーラが顔を顰めた。
「馬鹿が。コイツを運転するにゃぁ、俺がいるだろ?」
「確かに」
「そういうこった。開いてる店でも探すかねぇ」
 道端には落ちてるんだがなぁ、とぼやく。そう、歩道にはたくさんの食糧が纏まって並んでいた。それも、数日分は保ちそうな量を。けど『喜捨』というヤツで、家を持つ私たちは手にすることができない。あれらはちゃんと、渡すべき相手がいるのだ。なので、他の店を探すしかない。
 ゲーラがスマートフォンを触っている間、閉じたスーパーに近付く。ガラスの扉に手で庇を作って、中の様子を見る。なにもない。棚も空っぽだ。(物流、止まっているのかな)だとしたら大変だ。はぁ、と溜息を吐く。「おい」とゲーラが声をかけた。
「開いてるらしいぜ。一件、俺たちの馴染みの店だ」
「それって、もしかして」
「おう。俺らがバーニッシュ時代に散々世話になった店だな」
 電話かけたら開けてくれるってよ。といってスマートフォンを片付ける。なるほど、あの頃にお世話になった場所か。「マッドバーニッシュの、じゃない?」と尋ねると「るっせ」とゲーラが唇を尖らす。「少なくとも、俺たち〈バーニッシュ〉は世話になったろ」と含みを持たせていってきた。
 ──自分たち〈バーニッシュ〉──つまり、私たちマッドバーニッシュではない他のバーニッシュたちも、世話になったという意味だ──。
 ギュッとゲーラの腰に掴まる。私が後ろに乗り込んだことを見ると、ゲーラはギアを回した。四輪のバギーが走る。バイクだと思ったこれは、バギーなのらしい。車のバギーとは程遠いのに。そう思いながら、元馴染みの店に向かった。あそこだと、多少の果物野菜と、缶詰はあるし。きっとお金を払えば大丈夫だろう。
 マフラーに鼻を埋めて、空気感染を防いだ。


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