メイスの目

 ふと、暇で暇で仕方なくて。メイスの動きを眺めていた。こんなにジッと見つめて動かないことを見てか、メイスが近付いてきた。長い髪が揺れる。黒いと思ったけど、意外と青っぽい。紺色ってヤツなのだろうか? それに手を伸ばそうとしたら、メイスが屈んできた。視線を合わせて、額に手を置かれる。前髪を捲られた。
「どこか、具合でも悪いのか?」
 そう具合が悪そうに尋ねてくるので、違うとだけ答える。緩く首を振る。すると、眉を顰めたメイスの目尻が、フッと緩んだような気がした。
(あっ)
 アクアブルー。暗い紺色の髪で気付かなかったけど、目の色は明るい。スカイブルーとは違うけど、それよりも水っぽい。なんというか、クリア。澄んだ海の青い色に似ていた。ボーッと、海に思いを馳せる。あ、またメイスの眉が歪んだ。
「どうした? そんなに人の顔を、まじまじと見つめて」
「いや、瞳。綺麗な、澄んだ明るい青色っぽそうだなって」
 単語と単語を、ただ繋ぎ合わせてどうにか伝える。その拙さでも伝わったのか、フッとメイスが笑った。
「とんだ誘い文句だな。殺しには程遠い」
「誘惑、だなんて。そんなつもりはないのに」
「フッ」
 あ、鼻で笑った。人が違うっていってるのに。そう思ってちょっと睨みつけたら、スルリと撫でられる。額から頬へ。頬を包み込むと、顔を上げられる。
(あ、意外と大きい)
 大発見。メイスの手の大きさに感心しながら考えていると、スッとアクアブルーに影がかかった。あ、小さい。どちらかといえば、被子植物の種に近い、細長さだ。こんなの、やっぱり髪色で誤解しちゃう。服装もそうだし。黒っぽいと紺色っぽいの。ピンクのタンクトップがあっても気付きにくい。そう思ってたら、スリスリと頬を撫でられる。
「うっ、なに?」
「通行料、じゃなくて見物料だな。タダで見させるわけにはいかんだろう?」
「むっ」
「手間賃、だ」
 そう強調して、メイスがするする撫でてくる。正直、それで代金になるのだろうか? と思いつつも、変わる目の動きは面白い。ジッと硬い表情をした瞳が、柔らかくなる。本人の形相と違って、瞳の方は百面相だ。クルクルと表情が変わって、飽きることがない。けど、メイスは私を見てるだけである。
「飽きない?」
 と聞くと「飽きない」と返ってくる。そうなんだ、と頷けばまたメイスの目が潤んだ。丸く膨らんで、柔らかく細くなる。それを見て、やっぱり面白いものだと思った。
(あ、『目は口ほどにものをいう』)
 ふと、そんなことを思い出した。


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