周辺調査(ゲーラ)

「おい、ななし。見回りに行くぞ」
 バーニッシュサイクルを出したゲーラが、唐突にいう。「メイスは?」と聞くと「別件だ」とくる。
「べっけん」
「おう、大事なことをな。お前は手、空いてんだろ?」
「まぁ」
 あとは待つだけというか、皆が帰ってくるのを待つだけというか。確かに、手すきではある。とりあえずバーニッシュサイクルを出そうとしたら、クイッとゲーラが肩越しに後ろを指す。乗れ、と。タイヤの部分に足をかけ、ゲーラの後ろに乗る。タイヤ上の部品に足をかけ、ゲーラの肩に手を置いた。
「座れや」
 立とうとしてたら座れといわれる。スペースが狭い、といったらゲーラがクイッと顎を上げた。少しだけ前にズレる。
(それでも狭いんだけど)
 そう思いつつ、空いたスペースに腰を下ろした。肩に置いたままだと肘とかも疲れるので、ゲーラの腰をギュッと握る。背中がビクンと跳ねた。
「大丈夫? 出した方がいい?」
「ひ、つようねぇよ。心配するな」
 といってゲーラはバイクを出した。仮拠点が遠くなる。ビュンッと風が空を切っても、なにも変わらない。
「逸れてるバーニッシュの姿は、見当たらないね」
「おう。フリーズフォースの姿もな」
「こんなに走り回ると、逆に見つからない?」
「死にかけてるバーニッシュを放っておくよりかはマシだろ」
「それはそうだけど」
 でも、見つかったら元も子もないと思う。そうボヤいたら「そん時は追い返してやらぁ」とゲーラがいった。遭遇しない方がマシなのだけれど。
「炎天下の真下で死にかけるのは、相当ないよ」
「他人のこといえる立場か?」
「私のケースは稀な場合。いたとしても、自力で岩陰とか建物の中とか、隠れる場所に」
「お前、炎天下の下で倒れてたって話じゃねぇか」
「そう、らしいけど。でも滅多に」
「死にかけると、灰になっちまうらしいからな」
 ビュウッと風が強くなる。
「どこかで灰が舞ってるはずだぜ。今日の風は強ぇからな」
「それって、手遅れなんじゃ」
「見送りくらいはできんだろ? 残された仲間がいるのなら、守ってやれる」
「弔い?」
「んな感じだ」
 そういってゲーラが話を打ち切る。またビュウビュウと切る風の中に、炎の声が聞こえた。甲高い声で笑って、燃える場所を探している。「もっと燃えたいって、燃えて元気になるくらいなら」相変わらず、ゲーラは運転に集中している。
「燃やしたら、元気になるのかな」
「そりゃ、元気になるだろうよ。燃える元気があるならな」
「そっか」
 それもそうか、と自分で自分を思い直す。当たり前の話である。自分の体を燃やしてバーニッシュは燃えているのだから、灰になる体で燃やしても、どうにもならない。燃料はない。
「見送るしかないのかな」
「独りで逝くよりかはマシだろ」
 誰かに自分が生きていたことを知ってもらうだけでも充分だ。そう言い切ってゲーラは口を閉じる。後ろを見れば、ガガガと走った砂埃と四輪の痕がある。荒野から顔を上げれば、やはり空は青いままだった。


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