廃墟の電化製品(メイス)

 ジッとメイスがなにかを見ていた。「なにを見ているの?」と聞くと「あぁ」とメイスが答える。見ているものから目を離した。
「いや、コイツをどうしようかと思ってな。お前ならどうする?」
 と逆に聞かれる。メイスの指した方を見れば、壊れたテレビやオーディオとかがあった。どうする、と聞かれても。壊れてたらどうしようもない。
「スクラップを?」
「直せば使えるものがあるだろう? 要は、コイツらをどう使うかだ」
「置く場所とか、ある?」
 単純に聞き返せば、黙った。一瞬のあと「ないな」とメイスが答える。とても神妙な顔だ。そんなにほしいのだろうか?
「使えるの?」
「あ、あぁ。直せばな」
「ふぅん。これって、なにに使えるの?」
「映像を流したり音を鳴らしたり、だろうな。あぁ、これは音楽を聴けるヤツだ」
「ふぅん」
 指したものを触ったり叩いたりしてみたが、起きる気配はない。「コントじゃないんだぞ」と後ろでメイスがいう。
「なにかの役に立つの?」
「娯楽にはなるだろ?」
「音で気付かれたりしない?」
「あー、その可能性は、あるな」
 だから悩んでいた、とメイスがボヤく。
「持ち運びとかはどうするの?」
「バレたら捨てるしかないな」
「置いていくの?」
「あぁ」
「ならやめた方がいいかもね。あっても、持ち運びのできるものの方が」
「持ち運び、ね」
 ふむ、とメイスが頷く。腕を組みながら自分の顎を擦り始めた。見ている方を見れば、小型の機械があった。
「あれ、使えるの?」
「さぁな。使おうと思えば使えるんじゃないか?」
「ふぅん。もしかしてほしいの?」
 これが、とメイスが見ていたものを指差す。壊れたテレビやオーディオだ。メイスの目が、そっちへ戻る。ジッとさっきまで見ていたものを見ると「まぁ、な」と微妙そうに答えた。フゥと息を深く吐く。
「しかし、持っていても役には立たないからな。諦めた方がいいだろう」
「隠したり、とかは?」
「それは考えたりもした」
「やっぱ、バレたら壊されちゃうから?」
「見つかったりでもしたら、誘き出すための餌に使われるからな」
 やっぱ罠じゃん。そう答えると「まぁな」とメイスが軽く笑った。腕を下ろす。
「一つの油断が全員を危険へと巻き込むからな。そう迂闊なことはできん」
「それはわかる。逆に場所が割れて、逆探知もされるし」
「追われる身だと、そうゆっくりと趣味に浸かる暇もないわけだ」
「しゅみ」
「趣味だ」
 緩くメイスが頬を撫で、髪を耳にかける。顔が近付くと、ハッとしたような顔になって離れた。バシンと長い髪が顔に当たる。とても痛い。
 顔を擦ったり目をパシパシとさせていたら、ボソッとメイスが呟いた。
「すまん」
 ととても小さい声で。もしかして、私の顔に髪を当てたことだろうか?「痛かった」と告げれば「すまん」とまたメイスが答える。けれども口を腕で隠したままだ。
「気を付けてね。何気に痛いから。髪って」
 そういうとバッとメイスが振り向いた。ギョッと目を見開いている。それから調子が戻ったのか、いつもの調子になって「あぁ」と答えた。
「気を付けるとしよう」
 そういう目は、泳いでいた。


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