お肉食べる?

「ねぇ。なんか、お肉食べたくない?」
 唐突にそう聞いたら、ゲーラとメイスからめっきりびっくりした目で見られた。なに、それ。思わず口に出したら「いや」とメイスの口から出てくる。
「お前の口から、そんなのが出るとは思えなくてな」
「ここ最近、食う寝る飲むも忘れて没頭してやがったからな。死ぬかと思ったぜ」
「そこまでは、ないよ。多分。最低限の食事は取ってたし」
「全然喋りもせずか?」
「あんだけの食事で?」
「うぅ。ってか、ゲームを進めるのが先で。って、そのくらいならわかるでしょ? ねぇ、ボス」
「その流れで、まさか僕に振るとは思わなかったぞ。ななし」
 流れ弾を送ったら、ボスがそう返した。だって、わかってくれると思いましたし。ソファに寛いでるボスにそういうと「はぁ」と返ってきた。
「ほら、一度始まると止まらないでしょう? ゲームの中毒性」
「まぁ、それならわかるが。うん、やっぱりわかるぞ。やはり相手に勝つまでやめられないよな」
「はっ? ボス、まさか」
「それでヤツのとこに入り浸ってるんで?」
「経験の差で押し負けているところがあるからな。当然、勝つまでやる」
「はぁ、なるほど」
「ボスも好きですねぇ」
「だからゲームをやる間は、色々となんか、忘れるんだよ」
「そんな余裕もなくなるからな。でも、流石になにか飲むぞ? 脱水症状は危険だからな」
「え、そんな暇あります?」
「テメェが夢中になりすぎてるだけだろ」
「好きこそ物ンお上手となれだが、死んだら元も子もないだろう」
「そ、それはそうだけど。だから最低限の寝食はしてるし。あ、肉食べる?」
「食べるぞ」
「んじゃ、俺も」
「予算は?」
「このくらい」
 ピッと指で左端の数字を示すと、メイスが「ふむ」といった。顎に手をかけたのだから、かなり悩んでいるに違いない。
「桁は?」
「二桁くらい。あっ、数字の方? ゼロ?」
「二〇ドルって、中々高ぇな」
「高級ヒレ肉一切れくらいの値段がしそうだな。ほら、分厚いヤツ」
「あー、あったな」
「お前、それで胸焼け起こしただろ」
「一口だけ! 一口だけならセーフだから!! って、そうじゃなくて。お肉の詰め合わせで買うつもりだから。ほら、色んな部位の詰め合わせ」
「あー、あるか? 普通」
「さぁな」
「探せばあるんじゃないのか?」
「す、スーパーに行けば、お肉のコーナーに行けば、オススメの教えてくれるはずだし。で、食べるの? 食べないの?」
「僕は食べるといったぞ」
「俺もだぜ。久々にたっけぇ肉を食いてぇからな」
「異存はない。俺もだ。それにありつければ万々歳、って感じだ」
「ふぅん。まだ高いと決まったわけじゃないけど。まぁ、いいや。とりあえず買ってくる」
 満場一致で食べると決まったし。さっさと買ってこよう。財布を取って靴を履き直してたら、後ろからゲーラが来る。
「どこのスーパーに行くんだ?」
「向こうの。少し大きい方」
「ふぅん」
「一緒に行ってやろうか?」
「いいよ。行けるし」
 なぜかメイスが付き添いを買って出た。とはいえ、そこまで荷物はない。踵を靴に入れていたら、ボスも一緒に出てきた。
「もしかして、あそこのか? クーパー・スクエアの」
「三番街? そう、そこです」
「遠いじゃねぇか」
「しかも近くもない」
「ついでにカレーの通りで有名らしいぞ。インド料理があるのらしい」
「へぇ、そうなんだ。だからあんなにスパイスの匂いが」
「インドっすか。いいっすね。食います?」
「金ならまだ余裕がありますよ。充分、安いレストランに入れますよ」
「せめて中くらいのを願いたいところだな。しかし、今は肉だろう?」
「お肉のスパイスも買わなきゃですし」
「そうか」
「んじゃ、カレー食いに行きやすか? ついでに肉とスパイスも買ってよ」
「今日は大判振る舞いだな。吉日か? で、スパイスもそこで?」
「いや、買わないよ。個人のお店で買おうと思って。通りの」
「当たり外れが多いと聞くが? ぼったくらいみたいなのもあるみたいだし」
「え、本当?」
「あぁ、聞いた話によるぞ」
「おう、大マジだぜ」
「話にもよるがな」
「どっち」
 ボスを信じればいいのか、ゲーラかメイスか、それとも二人は正しくないのか。どっちだ。まったくわからない。そう思いながら出掛けようとすると「待てよ」とゲーラが声をかける。
「なに」
「今、準備してくっから。もうちょい待てって」
 くいっとゲーラが肩越しに指したのを見ると、メイスとボスが背を向けていた。どうやら、出掛ける準備をしているのらしい。「そう」と返すと「だから待ってろよ」と念押ししてきた。どうやら、皆で出掛けることが決定したのらしい。いったいいつからだ。
 そんなことを思いながら、玄関先でボスたちが終わるのを待ったのであった。


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