ジッポライター

 カチカチと金属の回る音がして、カチンと重い蓋が閉まる音がする。いいなぁ、と思ってジッポライターを見る。一つは擦り傷とかの傷だらけで、もう一つはオイルとかの汚れが染みついて取れないヤツだ。ハッキリいって、滅茶苦茶使い込まれている。けれどもどんなに見ても、二人が貸してくれることはない。
「貸してよ」
 そう呟けば、異口同音に同じことをいうのであった。
「嫌だ」
「断る」
 クソッと思いながら枕に顔を埋める。テーブルにはチュッパチャップスの山。そしてジッポライターのカチカチという音に、それ。いいなぁ、私もチュッパチャップスを大量に舐めながらそれで遊びたい。
 無言でベッドから起き上がり、キッチンに向かう。小さな踏み台を抱えて、テーブルの横に置く。上の部分を軽く払えば、簡易な椅子にできる。
「ここ、空いてんだろ」
 ボスンボスンとゲーラがソファの座面を叩く。確かに、人一人分が入れる余裕はある。だが窮屈だ。
「それ、ほしくなるからやだ」
 最悪奪い合いにもなりそうだし。そう思いながらチュッパチャップスに手を伸ばすと、メイスの手にあるのがカチンと鳴った。
「そうか」
 といいながら、飴の消えた棒を袋の中に捨てる。
「それ、俺たちが買ってきたモンなんだがなぁ」
「食べきれないでしょ?」
「いいや。意外と食べきるかもしれん」
「なんで」
「ばーか。我慢してんだよ、ヤニを」
「やに」
「アレに入ってることだ。禁煙するとどうしても禁断症状が出る」
「煙草のことか」
 そう呟くと、二人がピクッと動いた。
 深く凭れ掛かったメイスは仰いでいるし、ゲーラは背中を丸めている。けれども新しく咥えた方の棒を煙草みたいに挟んでもいるし、ゲーラに至ってはその先端をライターの火の出るところに近付けていた。禁断症状、染み込んでるなぁ。
「禁煙すると、甘いのがほしくなるの?」
「ばっ、そ、そうじゃねぇし」
「どちらかというと、口寂しくなる」
 指で棒を引っかいたあと、気まずそうにメイスの手が動く。片手でクルクルと飴を回した。カチンと音がする。ゲーラが背中を少しだけ伸ばした。
「ヤニの代わりに、これで紛らわしているんだ」
「へぇ。ろりぽっぷ」
「手短のでできればいいんだがなぁ」
 なぁ? と不服そうにゲーラが尋ねてくる。ソファに頭を乗せて喉を反らしながら全力で煽ってくるの、やめていただきたい。そんなこといっても、こちらに飴を作る技量はない。
「なに?」
 あっても、鍋を焦がして片付けが大変になるだけだ。一回だけやったが、もうやりたくない。
「本人は断ったぞ」
「は」
「それ、どうするの?」
 記念に取っておくつもり? と二人のを指差せば、意識がこちらに向いた。
「今も使ってるぜ」
「再利用だ」
 そういって、手持ちの古びたジッポライターを見せつけてきた。
(使うにしても、どうやって)
 もう使えないはずでは? ライターの使い道について頭を捻らせていたら「それってどういう意味だよ」「もう聞いた」「はぁ?」「お前が代わりになれといったら、嫌そうな顔をされたんだよ」という会話が聞こえてきた。
(他にもいたんだ。そういうの)
 と思いながら考え直してると、顎に力が入った。ガリっと砕かれた音がする。
「いや。結構いけるのかもしれねぇぞ」
「は? 本気でいってるのか」
「うんにゃ。出たとこ勝負のところが強いが、少なくとも今は」
 ガリガリと棒についた飴を歯で削ぎ落してたら、急に手首を掴まれる。向こうに引っ張る力が強い。慌ててテーブルに手を着いたら、膝がテーブルの端に当たった。
「いっ」
「慣れてんだろ」
 そう近くに聞こえた声に驚くと、ペロリと舌なめずりをする顔が間近に迫っていた。
(あ。チュッパチャップス、どこ)
 消えた棒の行方を探してたら、いきなり顎を掴まれて視界を覆われる。そのあとに、ストロベリーとラムネの味がした。ついでにグレープの味が混ざってくる。
「本当、出たとこ勝負だな。お前は」
 そう呆れたように呟く声が聞こえると、トンと固い音がした。
 ソファに引き摺り込まれる。先の音の正体を見たら、ジッポライターが二つ、テーブルの上に置かれていた。
(本当、なにに使ってるんだろ。あれ)
 不思議に思って疑問の種に手を伸ばせば、ガシッと手首を掴まれたのであった。


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