いつか重なるみっつの心音(いぬむた)

「君。いったい、どういうつもりなんだい?」
 とはいいつつ、ちゃんと着ている先輩はなんて律儀なんだろうか。そう思いながら、チョコレートを食べる。事の始まりはザッと省略するけど、色々とあって先輩に「これ着てください」といって袋を渡したのだ。こういう突然の事態で且つ先輩に理解の余地があるような状況で物事を頼むと、なんかよく通るのだ。今みたいに。
 目の前でバニーを着た先輩を見て、そう思う。というか名前に『犬』が付くのにウサミミも似合うとは、如何に。
(いや、ウサミミの方が似合うかも?)
 他は全然試したこともないが。胸元と足の部分以外は布が多いというのに、先輩は顔を真っ赤にしていた。俯いて、拳を震わせている。
「似合ってますよ?」
「そういう、問題じゃぁ、ないんだがねぇ」
 クイッと眼鏡を上げる余裕もないのか。震える声には怒りの覇気がある。
「すみません。ちょっと必要だったんですよ」
「ほう。なにがどう、必要だったか聞いてやろうじゃぁないか」
「はい」
 怒りつつも人の話を聞く余裕はあるんだな。そう思いながら、トンと一冊のスケッチブックを見せる。
「なんだ?」
「ご存じの通り、男の人のバニー姿を描く必要がありまして」
「意味がわからん」
「ちょっとモデルになるだけでいいので。あっ、モデルは別に先輩じゃないので。ご心配なく」
「じゃぁ俺がやらなくてもいいだろ!?」
「えっ、どうせなら似合う人に着せて、スケッチをしたいものじゃないですか」
「知るかっ! くっ、だったら同性に頼めばいいだろ!?」
「ダメです。男と女じゃ骨格が違うので。はぁ、仕方ない。じゃぁ他の人に頼むか」
 猿投山先輩辺りだったら、チョロイからすぐいうことを聞いてくれるだろう。ハイレグと網タイツとハイヒールでも受けてくれそうだ。そう代案を考えて立ち上がると、ガンッと床を叩く音が聞こえた。犬牟田先輩である。
 顔を真っ赤にして、椅子に座っていた。
「や、やりゃぁいいんだろ、やりゃぁ!」
 なぜか後半はかなりヤケッパチである。そんなヤケクソな声を聞きながら、そうですかと静かに返しておいた。鉛筆を手に取る。スケッチは早々にやった方がいい。
「気を楽にしてもらって構いませんから。あとで、ちょっと手の皺とかを見るために、お願いすることはあるかもですが」
「チッ、そうかよ」
 舌打ちしつつも、腕を組んでからは一歩も動かない。有難い。そう思いながら、服と骨格の素体を参考にして、スケッチを進めた。


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