ある日の寒い朝(卒暁後)

 冬が本格的に入って、段々布団から出られなくなる。夏より日が昇るのが遅いせいもある。日光は人間を起こさせるのに必要だ。けれど寒い。おまけにヒートテックのものを着ても、全身が温かくなる、とはいえなかった。どうしても、着ていないところから寒さが吹き込む。「寒い」もぞもぞと布団に入り直して、起きるのを止める。戻った私を先輩が抱き抱えて、首を傾げた。「別に、寒くはねぇだろ?」(先輩は、だ)私にとっては違う。筋肉量が違うのだ。そもそも。温かい先輩で暖を取る。
「作務衣でやるのも、限界があると思うなぁ」
「だったらダウンとか着ればいいじゃねぇか。それでも充分保つだろ?」
「石油ストーブで暖を取るのも、無理があると思う」
「厨房をガンガン温めるわけにもいかねぇだろ」
「それはわかるけど。でも、エアコンの取り付けとかしない?」
「取りつけられるのか? 建物自体、結構古いだろ?」
「室外機を付けれるスペースがあるから、ワンチャン。あと冷めた店内より温かい方がお客さんも喜ぶと思う」
「それはわかるけどなぁ。金、かからね?」
「かかるよ、そりゃぁ。工事代とかもあるし」
「やっぱりそのレベルになるか」
「いざとなれば、借入」
「面倒臭いだろ、それ」
「それもそう」
 ぐだぐだとして話が進まない。それにしても胃が痛い。ギュッと先輩に抱き着く。「朝起きたら、店にエアコンが付いてたらいいのに」「ランプの魔人に願うにしちゃぁ、ちゃちすぎねぇか?」「俗世的な願いといって」相変わらず、筋肉質だから基礎体温が高い。(冷えと無縁そう)あったとしても、風の冷たさでクシュンッとクシャミをするくらいだ。ブルッと震えるくらいで、内臓まで冷えやしないんだろう。「ずるい」「は? なにがだよ」私のぼやきに先輩が食いついたので、ギュッと抱き着きながら返す。
「寒さで身体を壊すのと、無縁そうで」
「俺まで倒れちまったら、どうしようもねぇだろ。バランスだ、バランス」
「じゃぁ、渦が倒れた暁には配達だけ済ませて店は臨時休業して、事務仕事だけを済ませておきますね」
「おう。う、ん?」
「あと、ご飯は。うん、あるものでいい? お粥とか」
「いいけどよ。今、俺を名前の方で」
「はぁ、腹巻きをする季節かな。お腹の冷えは、本当つらい」
「最後まで聞けや」
 先輩はちょっと、キレかかってるけど。怒りで体温が上がる、ということはあんまない。もう、これは激怒しないと際立った変化を感じられないんだろうか? 先輩の胸に、スリスリと頬を擦りつけてみる。「擽ってぇよ」「自分から引き寄せた癖に」「そりゃ、暖が欲しかったからだ!」そう先輩は胸を張るけど、本当にそれだけだろうか? 疑問である。
 ギュッとますます密着した。
「本舗に打診して、いい?」
「まぁ、いいけどよ」
 打診するくらいなら、いいそうだ。猿投山こんにゃく本舗にエアコン設置の要望をどう伝えるか考えながら、二度寝に入った。なんか、さり気なく先輩が頭を撫でてきてる。
「なに」
「いや、別に、なんともねぇけどよ」
 そう具合が悪そうに、言い逃れをしたそうな気配を感じるが、今は気にしないでおこう。お腹辺りに当たる硬いのは無視して寝た。


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