犬牟田サンはちょっとイラっとする

 武勇伝、武勇伝、聞いてくれ武勇伝。と頭の中で曲が流れるほど、今、俺の頭の中が混乱している。まず、猿投山。お前が千芳と一緒に来ることは既に予想済みだし、千芳も元々俺らの関係者だ。千芳がいることに関しては問題ない。だが、次に蟇郡。お前だけはなぜ、満艦飾を連れてきた? なぜ満艦飾がここにいる!? 問い質せば、『い、いや! これも満艦飾の後学になると思ってだな……。俺なりに! 元本能字学園の生徒を気遣っているのだ!!』と盛大な空リプを投げてきた。お前、遠まわしにデートを誘いたかっただけだろ……。そして猿投山。それならとばかりにお前は千芳を口説くな! 鬱陶しい!
 リア充爆発しろ!! と心の中で憤りながらも、俺はガリガリくんを食べた。
「もう。あの二人は相変わらずねぇ。ねぇ、犬くん?」
「あぁ、そうだね。ところで蛇崩。君のそのパピコの片割れ、いったいどこに行った?」
「あら? 気になる? ちゃんと犬くんの視線の先にあるわよぉ?」
 いわれて見た方へ目を戻せば、なるほど。ちゃんと千芳の手にあった。猿投山は猿投山で、「なんでお前がパピコを食ってるんだよ!?」とかなりのマジ顔で千芳に問い質していた。いい気味だ。そして蟇郡。なぜ満艦飾へアイスの食いすぎを注意している。お前の心配が裏目に出ているところか余計な勘違いをされているぞ。お前。
 アイフォンを脇に抱え、蟇郡にちょっと近付く。
「っていうか、纏はどうしたんだよ。アンタ、いつも纏と一緒にいたはずだろ?」
「はい! 流子ちゃんはですね、なんか都合が悪いといってお家でお留守番しています!」
「ふぅん」
 まぁ、来ても猿投山のヤツに喧嘩を吹っ掛けられるだけだろうし、千芳と満艦飾で騒ぐには俺たちが邪魔になるからねぇ。そう邪推をしながら千芳の方を見ると、予想通り千芳は猿投山に絡まれていた。やれやれ、まったく。俺はガリガリくんをガリッと噛み、猿投山の口へガリガリくんメロンソーダ味を突っ込んだ。
「ふぐ!? は、はひふんはひょ! ひふふははふ!」
「なにいってんだがわかんないね。自分だけアイス食ってないのが不満だったんじゃないのか? ほら、俺がついでで買ったメロンソーダ味をくれてやるよ!!」
「はっ、はへほはへほ!! ふ、ふひはふぉおふ!」
「あわわ……。い、犬牟田先輩。これ以上はやめた方が」
「うん? そうかな? 千芳もやってみるかい?」
「そ、それは遠慮した方が……!!」
「ふぅん?」
 しかし、その目には『やりたい』と意志が爛々として光っている。千芳の言葉だけの否定にニヤニヤとしながら、アイスの棒を離す。すると、猿投山が自分でアイスの棒を持ちながら、ゲホゲホと咳き込み始めた。
「な、なにするんだよ! 犬牟田さん!!」
「いや? 君がやけにアイスを食べたいと騒いでいたようだからね。俺がよかれと思って施しを与えたんだよ。感謝してほしいくらいだね」
「いやいやいやいや! あんな窒息するくらいの勢いでアイス突っ込まれても、感謝の一字も出ねぇよ!?」
「ふぅん?」
「まぁまぁ、窒息死しないだけまだマシじゃないですか。喉が冷たいだけで大丈夫でしょ?」
「確かに大丈夫だけどよぉ。俺は猫舌なんだぜ? 治してくれよ、千芳」
「人前ですしそんなちゅー強請られてもやりません」
「そもそもキスで喉の凍傷を治そうとするのが無理なんじゃないのか? 御伽噺じゃあるまいし」
「ちっくしょう! コンピューターオタクが二人も揃ってるとややこしいな!!」
「先輩、私はコンピューターオタクではありません」
「右に同じ。俺がコンピューターオタクだと仮に認めたとしても、千芳はそのコンピューターオタクの領域にはまだ入ってないね!」
「だぁ! ややこしい!!」
「あらあら。そんなに虐めないであげたらぁ? お猿さん、小難しい話が苦手なのよ?」
「なるほど、猿だからか」
「猿だけに、ですか」
「キィイイ!! お前ら、あとで覚えとけよ!? 特に千芳!! お前、絶対覚えとけよ!?」
「あらこわい」
 棒読みだ。千芳は感情の籠ってない声で反応をした。煽り耐性のない猿投山には堪えたのだろう。ますます顔を真っ赤にした。
「ハハッ、まるで赤猿だな」
「てっめ! 犬牟田!! 黒檜山の火口で逆さ吊りにしてやろうか!?」
「まぁまぁ、どうどう、先輩。落ち着いて」
「さながら小さなお山の大将ね」
「蛇崩ぇ、お前ぇえええ!!」
「まぁまぁ、落ち着いて。先輩」
 やれやれ、千芳も呆れてしまってるじゃないか。肩を竦めていると、千芳が「元々先輩が……」と非難したそうに俺を見てきた。「申し訳なく思ってるよ」と謝罪を口にすれば「そうですよ」と千芳が答える。そのやり取りに「おい! 謝るのは俺の方じゃないのか!?」と猿投山がキレた。
「そんなこといってもな」
「謝罪を口にしたからいいのでは?」
「千芳! 謝罪にも気持ちというものが大切なんだぞ!?」
「うぅん。でも、犬牟田先輩は謝ったし」
「俺に! 謝って! ない!!」
「へぇ」
「別にいいじゃない。はいはい、ごめんなさいでしたー」
「蛇崩も! まだ! 気持ちが籠ってない!!」
「静かにしろぉ!! まったく話が聞こえんではないか!」
「そっちはそっちで話が盛り上がってたみたいだね!! あー、はいはい、すみませんでしたー!」
 ヤケッパチで叫ぶと満艦飾からその場にそぐわない声が聞こえる。なにが「大丈夫ですよー! 気にしてませんからー」だ! 呑気なヤツだ、と思ってたら、千芳も呑気なことをしていた。
「はい、先輩。これを食べたかっただけなんでしょ?」
「いや、そういうわけじゃねぇが……。でも、くれるんだったら頂くぜ」
 なにいちゃついてんだ。殺すぞリア充どもが。


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