secret(卒暁後)

 どうやら、近所の子に相談を受けていたらしい。にっかり笑って、元気付けた子を見送ってる。その子が帰ったのを見てから、店先に出た。先輩の視線が徐々に高くなっていった。
「知り合い?」
「ちげぇよ。偶然、話を聞いちまってな。んで、相談を受けるようになったって話だ」
「へぇ」
 やっぱり面倒見がいい。と思ってたのに、口から出た一言がこれである。店の周りを見ると、綺麗に掃除をされている。箒とチリトリを所持した仕事はしたようだ。(もしかして、あの子と話すために時間を合わせたのかな)そう思うけど、そこは先輩の都合によるもので、私の出る幕ではない。(なにもすることがない)その子と話した内容を聞くにしても、プライベートに当たる。外部の人間が聞くものじゃないだろう。「さぁってと」といって、先輩が背伸びをする。もしかして、店の中に戻るとか? そんな感じかと思ってたら、先輩と目が合う。
「戻るぜ?」
「あ、うん」
 邪魔になるか。そう思って、一足先に店の中へ戻る。こんにゃくは、まだ今日の分は売れていない。小学生が帰った頃だから、夕方の時間帯で勝負が決まるだろう。遅れて先輩が店の中に戻る。カウンターを通って、休憩室代わりの座敷に通る。そこのロッカーへ箒とチリトリを片付けた。
「ちゃんと手を洗ってくださいね」
「ったりめぇだろ。いわれなくても、わかってる」
 話を続けたいのに、どうしてもこの手の話題になってしまう。違うのに。雑談でもした方がいいのか? でも、仕事中だし。やっぱり仕事のことを話してしまう。(今日、仕込み終わったっけ?)先輩のことだ。この時間帯までの仕込みは、もう終わらせている。私も手伝ったんだ。終わっていることに変わりはない。カウンターに座りながら、ボーッとする。すると、先輩が隣に座ってきた。ガタン、と隣の部屋から椅子を持ってくる。
「なにしてるんですか」
「あ? 休憩だよ。休憩」
「店頭でお喋りとかあります? 普通、入りにくいでしょ」
「喋りたそうな顔をしてた癖によ」
 そう憎まれ口を叩かれると、なにもいえなくなる。カウンターに腕を乗せ、ぐてっと寄り掛かる。確かに、話したいけど。それでも時と場所がある。プラプラと足を遊ばせて、足首を組む。
「気持ちは嬉しいけど」
「あ?」
「新規顧客層を取り逃がすのは惜しいから」
 売上が落ちることは見過ごせない。そう理由を話すと、先輩がムッとした。そんな顔をされても、無理なものは無理。私だって拗ねてしまう。ヘソを曲げた先輩の顔をジッと見る。先輩も負けじと私を見返した。それでなにを思ったのか、私の顔を見ながら「はぁ」と溜息を吐く。腰を上げて、椅子を元の場所に戻した。私の後ろを素通りし、休憩室の前でちょいちょいと手招きする。なんだろう。(少し離れても、大丈夫かな)カウンターとすぐ傍だし、お客さんがきたら気付くだろう。手招きに応え、先輩の傍に行く。休憩室の中は、外から見えない。カウンターより奥に入らないとわからない仕組みだ。その完全にわからない状態で、先輩がギュッと抱き締めてくる。これは嬉しいけど、やっぱり仕事中だ。
「あの、これ。仕事中」
「バレなきゃいいだろ」
「そういう問題じゃない」
「ハグって、三秒抱き着いてるだけでも効くらしいぜ」
(そういう問題じゃ、ないってば)
 建て前を与えてくれたように思えるけど、やっぱりここは仕事をする場所。こういうことをする場所じゃない。でも、ちょっとだけならという欲が沸き上がるのは本当で。少しだけ握り返してしまったのも事実で。先輩の肩や胸に顔を埋める。いや、本当。こういうのはよくないんだけどな、本当に。そう思いながら先輩の好意に甘えた。


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