【R-15】寝惚けてるほど素直

 春一番の風が吹いたと思ったら、突然の爆弾低気圧である。春の訪れが一気に冬へと変わった。外でピヨピヨ鳴いていたスズメも、温かな巣に引っ込む。(冗談だろ)と猿投山は鼻を啜った。千芳のスマートフォンが点灯する。画面だけを起動させると、現在地の気候が荒れるとの警告が出ていた。そのメッセージから画面の画像へと視線が移る。千芳の趣味が出た壁紙を見たあと、スイッチを消した。画面が暗くなる。モゾリと布団に潜って、二度寝を決めようとした。だが、千芳が起きていることに気付く。薄く目を開けて、しょぼしょぼと瞬きをしていた。
「うぉっ。は、はよ」
 まさか、勝手にスマートフォンを見たことを誤解されているのでは──? そう猿投山は不安に思ったが、杞憂に終わる。猿投山の挨拶を受けても、千芳は返事をしない。重い瞬きを何度か繰り返し、首を傾げる。猿投山の胸に凭れかかると、健やかに寝始めた。二度寝である。完全に身を預けてくることは嬉しいが、限度がある。据え膳喰わねば男の恥を堪えるのも、限度があった。軽く目を覆い、溜息を吐く。(マジかよ)そろそろお預けを解禁願いたいが、千芳の許可が下りない限り手が出せない。再度溜息を吐く。下半身の疼きを誤魔化すために、千芳の顔を触り始めた。頬を包んで、目元を触ってみる。目脂のカスが付いており、親指で拭ってやる。ここまで強く触っても、千芳は起きる気配がない。それをいいことに、手の平で千芳の頬を味わう。スリスリと上下に動かし、指先で耳を包む。そこから、耳の裏を触った。流石にひんやりとした感触で起きたのか、千芳が軽く身じろぐ。それでも起きない。もぞもぞと寝返りを打とうとしただけで、すぐに熟睡に戻った。
 千芳の頬を包む。数秒、数十秒触り続けても、本当に起きる気配がない。
(熟睡してんなぁ)
 とぼんやりと考えながら、距離を詰める。千芳に高さを合わせて、額をコツンとさせた。小さな痛みを与えても、目を開けようとしない。パカッと小さく口を開けただけで、寝息を漏らす。額を合わせた猿投山の口から、荒くなった息が漏れ始める。その熱っぽい息が千芳の顔にかかった。(起きねぇな)と冷静さを戻そうとしながらも、顔を近付ける。目と鼻の先になっても、千芳は起きない。鼻と鼻が擦れ合っても、ピクリと瞼を痙攣させない。心臓の音が煩い。はぁ、と息を吐くたびに首が震える。ぎこちなく身体を動かし、頬に宛てた手を後頭部へ回した。瞬間、千芳が身じろぎをする。ギュッと目元に皺を寄せた。(やっべ)気付きつつも、逆に拍車をかける。グッタリとする後頭部を支え、唇を重ねた。(やっ、べぇ)同じ言葉が別の意味に変わる。久々の感触だ。下半身だけでなく、全身がカッと赤くなる。千芳と同じように、猿投山もまたギュッと目を閉じる。視界を封じ、千芳の感触に集中した。(柔らけぇ)ふっくらとした厚みを自身の唇で堪能し、一度離す。ちゅぱっと音が漏れた。一回だけでは足りなくて、もう一度唇を重ねる。同じ角度からでは、物足りない。軽く千芳の肩を押す。今度は眉間に皺を寄せた。(してぇ)最早『起きるかもしれない』という不安は、頭から消えていた。千芳を仰向けにさせ、馬乗りになる。久しぶりの感覚に、猿投山の興奮が増した。下半身が痛いほど熱くなる。膝にシーツを擦り合わせ、スラックスの腰を軽く緩ませる。角度が自由になった。すかさず、キスをする。ちゅっと音を立てても、千芳は起きない。軽く頭部を枕へ傾かせる。それが嫌で、腕で敷居を立てた。千芳の頭部に腕を回す。顔の角度を固定すると、自身の角度も調整してキスをし直した。右から左へと唇を重ね、上唇と下唇を味わう。離れる合間に自身の唇で挟み、柔らかさを堪能する。一度目が終わったら、左から右へと唇を重ね、もう一度味わった。今度は挟まず、舌で舐めてみる。舌先で唇を突いてみても、千芳は目を開けない。唇に当たった感触で、小さく歯の隙間から舌を突き出すだけだった。唇の外には、出てない。(誘ってんな)と思いつつ唇を近付ける。千芳の開いた唇の隙間に舌を伸ばし、舌先だけで触れてみた。(吸いてぇ)そう思うものの、千芳は口を開けてくれない。角度を変えて、唇を合わせる。触れるだけのキスを繰り返し、自身のやりやすい角度で一旦固定する。唇をくっ付けると、千芳の口内に舌を滑らせた。前歯が邪魔をする。口内への侵入は一旦諦め、舌で歯列をなぞる。下の歯から左へ滑らせ、上の歯も舌先で舐めようとする。けれど、今の感触で不思議に思ったのか。千芳がなにかを確かめるように、口を開いた。その好機を猿投山は逃さない。(占めた!)と同時に千芳の口内へ舌を潜り込ませる。完全に口内での自由を得た。猿投山の舌が、寝惚ける千芳の舌を捕まえる。それが奥へ引っ込まないうちに、舌の裏から包んだ。ジュルッと音が漏れる。猿投山は口を離さない。千芳も久しぶりの感触に驚いているのか、ビクッと身体を震わせた。脊髄反射のように、腕を浮かせる。手頃な高さに掴める物体があったので、それを掴む。慣れ親しんだ感触だ。舌と唇、太ももに押し付けられる熱さで、千芳の意識が浮上した。ちゅる、と舌が滑る。生まれた摩擦が刺激となり、千芳のスイッチを完全に押した。薄っすらと目を開ける。
「んっ、うぅ」
(あっ、やっべ)
 呻く声に、猿投山が正気に返る。けれども、身体の動きは止まらない。舌と唇を味わい、啜った唾を飲み込む。舌が皿代わりとなるが、全ての唾を支えるとは限らない。ツッと千芳の口端から零れる。自分を見つめ続ける寝惚け眼から目を逸らせないまま、猿投山はキスを終えた。身体を軽く浮かす。完全に自分が馬乗りになり、千芳を抱く主導権を握っている状態だ。
「わ、わりぃ」
 咄嗟に謝るが、千芳はボーッとしているだけだ。熱に浮かされているとも見える。頬が紅潮しており、より多くのものを求めているような気さえする。
(でも、なぁ)
 それはただの勘違いかもしれない。判断に迷う猿投山を余所に、千芳が鈍く動く。肩から首に腕を回し、自ら猿投山を近付けさせた。
「も、っと」
「は?」
 猿投山が虚を衝かれる。数秒、固まるものの千芳は前言撤回しない。意識が覚醒していないときほど、素直になるものだ。ポカンとする様子にじれったく感じたのか、千芳が猿投山を引き寄せた。胸に、柔らかい胸がより近く感じる。
「もっと」
 流石にごねた。寝惚けていても、不満は感じるのらしい。二度も念を押されたこともあって「マジか」と猿投山は呟いた。そのボヤキが質問に変わり、千芳を不機嫌にさせる。(やっべ)再度覆い被さる。今度は、ちゃんと二度要求した千芳の希望に応えてあげた。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -