先輩が「それを買うか?」と尋ねてくる

「それ、興味あんのか?」
 ふと、先輩の漏らした一言で、立ち止まった。
 私の手には、今しがた見ていたばかりの商品がある。まるで、絵本のようで、それでいてクレヨンで描いたような、子どもの温かさを持つ絵を、アップリケしたようなポーチだ。
 いいえ、と首を横に振る。すると、先輩は怪訝そうな顔をした。
「なんでだよ。さっきから、それを物欲しそうに見てたじゃねぇか」
「見てませんよ」
「見てたっつーの。そりゃぁ、もう。ジィ―ッとな」
 しつこく聞いてくる先輩に、少しムッとする。だって、頬を突いてくる始末にまでいってるからだ。
 プイっと先輩から顔を背ける。けど、少し距離を詰めて、膨らんだ方の頬を突いてくる。おかげで、「ブッ」と口から溜め込んだ空気が出た。ククッと、先輩が喉の奥で笑った。
「笑わないでくださいよ」
「わりぃ、わりぃ。で、本当にいらねぇのか? なんだったら、買ってやるぞ」
 いつになく、彼氏面するなぁと思いながら、お値段を確認する。にっぱちだ。夏目漱石さんを三人出したら、消費税抜きで二百円のおつりが返ってくる。
 先輩の顔を、ちらっと見る。先輩は得意そうな顔で「ん?」と目で聞いてくる。うぅ、断りづらいなぁ。と思いながら、手にした商品を、先輩に渡した。
「おう、わかったぜ。しばらく待ってな」
「はーい」
 ニカッと笑う先輩は、嬉しそうだ。
 私に頼られて、甘えられて嬉しかったのかなぁ。なんて思いながら、先輩の後ろ姿を眺めた。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -