アロマの日

 今日は文化の日でアロマの日らしい。なるほど。だから、本やアロマの類がちょっとセールみたいなことをやってるのか。いつもより安くなってるのを見ながら思う。あ、ちょうどほしかったヤツだ。これも買っておこう。ついでに、アロマオイルの方も買おうかな。でも、いつ使おう。
(それなら、線香──お香みたいなのでもいいか)
 これだと、専用の器具を買う必要もない。火を灯して香りを味わうだけで、ちょうどいい。お香立ても、安くておしゃれなのもあったし。ボーッと、崩れそうな灰の頭を眺める。もくもくと部屋中に香りが広がってる。のそりと、先輩が私の上に覆い被さった。背中にお腹を乗せて、腕を私の肩にかける。ちょっと重い。もしかして、顎を乗せたな? チラッと盗み見ると、手に顎を乗せていた。私と同様、ボーッと灰になるお香を見ている。
「消えねぇな」
「三十分くらいは持つらしいですね。これ」
「ほーう。じゃ、終わるまで休憩だな」
「それより、このまま寝ません? 明日も早いし」
 それに寒い。もぞりと布団の中に潜り込もうとしたら「寝ずの番っていうだろ?」と先輩が上からいう。スッと前に腕を置かれる。もぞもぞと人の上で動いて、ポスンと顎を乗せてきた。今度は頭が重い。
「このままだと、火事って場合もあるぜ?」
「そりゃそうですが。だからといって、三十分休憩はないです」
「んだよ。ケチ臭ぇなぁ」
「ケチ臭いのは先輩だけです。とにかく、これ以上は明日に響くので」
 だからこれ以上硬くするのはやめてほしい。お尻や太腿の辺りに、ちょっと硬くなりつつある柔らかいものが当たる。先輩が、頭の上で溜息を吐いた。
「生理現象だから、仕方ねぇだろ」
「じゃぁ、やめてください。すぐにやめて」
「んな難しいこというんじゃねぇ。生理現象をコントロールするなんざ、無理だろ」
「薬でも飲まない限り?」
「あ? 一晩中抱かれてぇって?」
「は?」
 前言撤回。誰もそんなことをいってない。それでもいつもより口数が少なくて終わったのは、一重にお香のおかげでもあるんだろう。なんか、リラックスできるのを買ったし。風が生まれて、お香の煙が少し揺らめく。「消さないでくださいよ」と注意したら「灰が落ちただけだぜ」と先輩が頓珍漢なことをいう。そうじゃないのに。
「風流も風雅もわからない人」
「おうおう。そいつぁ、馬鹿にしてんのか?」
 のしっと圧し掛かって顔を覗き込んできたから、どうしてやろうかと思った。


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