布団のなか

 止めようと思っていた音声が止まる。可笑しい。まだ止めてないはずなのに。重たい瞼を上げると、見知った手が見えた。
(あ、うず)
 ぼんやりと眺めていると、真上からこっちの顔を覗き込んでくる。それにパシパシと瞬きをして誤魔化していたら、渦が身じろぎをした。ちょっと距離を詰めてくるというか、抱え直したというか。さっきまで離れていたぬくもりが、背中に戻る。というか、最初から一緒に寝てたっけ? 私も少し、身じろぎをする。布団の中でグッと背伸びをして、身体を丸め直す。
「まだ、聞いてるのに」
「その割には、ぐっすりと寝てたぜ?」
「熟睡してただけ」
 それはどっちも同じだ、っていうツッコミは無しで。野暮だ。もぞもぞとスマホを手繰り寄せる。スマホを触るよりも前に、渦が手を握ってくる。ちょっと冷たい。暖を取るように、ギュッと握り締めてきた。あっ、ハンドクリームしてない。あとで保湿、しなきゃ。
「手、カサカサしてる」
「してねぇよ。スベスベだぜ?」
「ふるい」
「古いって、お前なぁ」
『言い方が古い』っていおうとしたら、なんか勘違いしている。もぞもぞと寝直す。渦の腕が、私の首に当たった。ちょっと圧迫感がある。
「なんか、体調悪いのか?」
「べつに。眠いだけ」
「だからといって、寝ても寝たりねぇのは異常だと思うぜ?」
「そんなに?」
「おう」
 渦がなにか話してるけど、私は眠い。ふぁ、と大きく欠伸をする。渦がちょっとだけ、距離を詰めた。お腹に腕を回される。寝返りを打ちたい。ぐぅっと身体を少し伸ばした。
「とても眠いだけだよ。とっても」
「このままポックリと逝っちまいそうで、怖いぜ」
「いかないよ、まだ」
 ふぁ、と欠伸をする。枕に頭を置き直したら、空いてる手で頭を撫でられた。髪を掬われる。
「セックスの話をしているんじゃねぇぞ」
「しってる」
「目が覚めたら死んじまってそうな気がしてよ、おちおちと眠れやしない」
「寝ようよ。寝ないと、倒れちゃうよ?」
「知ってらぁ。先に死ぬんじゃねぇぞ?」
 と念を押してくる。額もコツンと合わせられた。それもそうか、今寝返りを打ったんだから。ふあっと欠伸をする。すごく大きな欠伸をしたというのに、渦には移らなかったようだ。もぞもぞと動いて、渦の胸に身体を寄せる。こんなにも血潮が、体温があるというのに。それで不安になるだなんて、変な人。と思いながら頭を撫でられるままにした。渦の手が髪を撫でて、指で掬いながら髪を絡める。心拍数に耳を澄ませば、平常心。けれど刺さる視線は、なんか納得していなさそうだった。
「ったく」
 そう呆れる声が聞こえた。もぞもぞと寝直す音が聞こえる。よかった。どうやら眠ってくれるようだ。身体を丸めた渦に、両手で抱えられる。そういえば、いったいいつのまに布団の中に潜り込んだんだろう? そう思いながら、もう一回寝た。


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