素直じゃない(卒暁後)

 千芳が俺の腕の中で寛いでいる。すっげー前から思ってたけどよ。コイツ、振れ幅大きくねぇか!? 昔と比べたら、えらい違いだぞ。今じゃ、すげぇデレてるしよ。(いや、これはこれで嬉しいが)これも、俺の努力のおかげ──って、思えばいいんだよな? 千芳に頬を寄せる。俺からくっついてきたことに気付いてか、千芳が目を開けた。
「な、んですか?」
 あー、クソッ。もう少しで気の抜けた声が聞けそうだったってぇのに。反対側の頬を、指で突く。ついでにギュッとしてやれ。腕で千芳を押し寄せる。
「敬語」
 腕で押されてか、千芳が窮屈そうに身を捩る。逃げんじゃねぇよ。今の一言で気付いたのか、千芳が申し訳なさそうに眉を下げた。「な、に?」あー、もう少し。もう少しで気の抜けた声が聞けそうだってぇのに。たまに出てくるそういうとこ、嫌いじゃねぇけどよ。やっぱ、イッた直後のふわふわとした感じが堪らねぇというか、あれを日常的に見たいというかだな。距離感に戸惑う千芳の頬を緩く抓って、揉んでみる。別に、ドーンッと胸に抱き着いてもいいぜ? 俺ぁ、お前のために胸を開けているんだからよ。
「あー」
 なに、と聞かれた手前、なにかを答えなければならない。が、なにも思いつかん。ジッと千芳の目を見る。見つめられるとお喋りできねぇってか? 気まずそうに視線を逸らせちまった。軽くキスをする。唇にキスをしたもんだからか、千芳がキョトンとした。あー、それだよ。その目が俺は見たかったんだ。パチッと俺を見た千芳の目がもっと見たくて、もっとキスをする。すげぇ断続的にしているせいか、なんかエロイ音がし始めた。「ぁ、ぅ」と千芳が呻く。なんか『せんぱい』と呼びたそうに形を作ったもんだから、無理に塞いだ。そうじゃねぇだろ。名前で呼べよ。そう思いながらキスをしたら、届いたのか。千芳が口を離した隙に「うず」と弱弱しく名前を呼んだ。あー、堪んねぇな。今までツンツンしていたヤツがよ。照れ隠しに悪態を吐いたようなヤツが、今では、ようやく。
(俺と同じ気持ちだっつーことに気付いて、俺と同じように『俺』を求めている)
 両想いで互いに互いを求めてるってことに、幸せを噛み締める以外のなにかがあるか? いや、ない。グッと千芳の肩を抱き寄せる。ちっちぇ。思ったより小せぇ肩だった。
(なんか、グシャグシャに潰しちまいそうだな)
 羽毛を扱うかのように、押し倒す。いや、グシャグシャに潰しちまいそうっつーか。実際にグシャグシャにしてたわ。よく考えれば、よ。俺に押し倒されて覆い被されてか、千芳が両腕で顔を隠す。クロスさせんな。キスしようにも、その幅が邪魔になっちまう。自然と退くのを待つ。が、千芳がクロスした腕を下ろす気配がない。
 ゴロンと俺の腕の中で寝返りを打つ。横向きに寝て、顔を床へ向ける。俺に向いた腕で、俺の胸を押し返そうとしてきた。
「や、やっぱ。今日は無しで」
「できるかよ」
 死にそうな声で嘆願されても、はいそうですか、で頷けるわけねぇだろ。強引に千芳の腕を剥がし、仰向けにさせる。あー、やっぱりか。やっぱり、俺でいっぱいいっぱいになって戸惑った顔になっていた。
(んな悩むくらいなら、素直になっちまえばいいものを)
 そもそも、溜め込みすぎは毒になるというくらいだ。千芳の身体を触る。ツッとラインをなぞっただけだというのに、千芳の身体が面白いほど跳ねた。
「やっぱ、かわいいな」
 と当たり前の感想を零せば、真っ赤になった千芳が鋭く睨んでくる。今じゃ、それを怖いとも思わねぇ。照れ隠しもお疲れさん、って感じだ。意地っ張りな口をすかさず吸う。舌を入れて無理に抉じ開けりゃぁ、素直に出してくる。やっぱ、肌と肌との付き合いは大事だろ。千芳の服に手をかけ、首に吸い付く。「やっ」と微かに声を漏らすものの、俺の手を掴む力が弱い。抵抗らしい抵抗を、なに一つしねぇ。「嫌だったら、抵抗すればいいんだぜ」といえば、千芳がビクッと跳ねる。恐る恐るといった感じに濡れた目を開いたが、そりゃぁ。『やめちまったら悲しい』と訴えてる方じゃねぇか。気付いてんのか? 弱弱しく力を入れて、俺に訴えかける。「はぁ」と色っぽく息も吐いて、誘ってんのか?
「そ、の。なんか、変になってしまうから。やめっ」
「気にしてねぇよ。変になっても」
「そ、それって、どういう」
 あー、泣きそうになるんじゃねぇよ。そういう意味じゃねぇってのに。ぐにゃりと歪んだ唇にキスをする。んな大粒の涙を垂らすのは、せめて善がりまくって死にそうになっちまったときに取っておかねぇか? 散々、俺の上や下で泣きながら善がりまくってただろ。お前。何度かキスをすりゃぁ、涙が引っ込む。もう一度押し付けて寝かせりゃぁ、千芳が「んっ」と潰れる声を出した。
「とりあえず、余計なことを考えんな。俺のことだけを考えていろ」
「えっ、そ、それって。どうい」
「俺のことだけ考えていろ」
 下手したら減らず口が復活する。千芳の口を塞ぎ、強引に押し進める。下着越しに胸を触れば、嬉しそうな声を上げる。ちょうどいい。このままじっくり、解しちまおうか。千芳に頭を掴まれたまま、とりあえず胸だけを味わうことにした。


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