せーりつう(在学中)

 とても大変なことが起きた。腹部に生じた鈍痛を手で押さえる。お腹、冷やさない方がいいだろうか。伊織先輩に、ちょっと腹巻きがないか聞いてみよう。極制服との兼ね合いで、変なことになったら大変だし。仮眠室を兼用した執務室を出て、家庭科室に行く。というか家庭科『室』って規模じゃない。あれは裁縫部専用の巨大な工場と研究施設みたいなものだろ。いくら本能字学園って『学園』の名を冠しているとはいえ。
(まぁ、この辺りのこじ付けは前からか)
 野暮なツッコミだろう。ズキリと下腹から鈍痛が走る。もう、猫みたいに必要に応じて排卵期に入ればいいのに。どうして人間ってのは、毎月こういうサイクルがあるんだろう。重い体を引き摺ると、先輩と出くわした。
「げっ!」
「『げ』ってなんだ! 『げ』って!! 俺に見られて都合の悪いことでもあんのか? え?」
「えぇ。とても」
 正直に話すと、見るからにショックを受けた。蓄積ダメージを飛ばして、大きなダメージが入ったようである。切羽詰まった表情から、ガーンと顔を青褪める。わなわなと震えていた。
「用がないなら、行きますね」
 とりあえず、早く腹部を温めたい。足元も、ちょっと防寒タイプのに変えてもらおうかな。流石に、このままだと不味い。横を通り過ぎようとしたら、腕を掴まれる。
「おい。待てよ」
「なんですか。今、忙しいんですが」
 うっ、体調不良がヤバい。バランスを立て直そうとしたら、肩を支えられた。とてもお腹が痛いし、足も怠い。上から覗き込まれる。
「なんだ? 顔色悪いじゃねぇか」
「う、るさいですね」
「人のこといえねぇなぁ? 薬飲んだ方がいいんじゃねぇのか?」
 あん? と煽られた分もあって、ムッとしてしまう。腕を振り払おうとしたら、先輩の肩に当たった。
「薬がどれもこれも合わないんですよ」
「低いヤツを飲めばいいじゃねぇか」
「それでもダメだって話です。食事療法や、そのくらいですね」
 薬を飲んで遅らすことはできるけど、体質に合う合わないがある。この辺りは病院行かないとわからないところだ。市販のものだと、合わないわけで。
「もういいですか」
 そう尋ねるけど、離してくれない。人の肩と体を支えたまま「ふーん」と見下ろすだけだ。
「伊織ンとこに行くつもりか?」
「そうですけど。なにか?」
「結構立て込んでるらしいぜ。今。下手な用事だったら後に回した方がいい」
「私にとっては火急ですから。大丈夫です」
 最悪、条件だけ聞いて帰ればいいし。そう思って足を動かそうと思ったら、動かない。足が浮いて、横に寝かされる。お尻が、クンと重力に引っ張られた。
「あの」
「あ? 折角だから、送ってやるよ。ふら付いているようだしな」
「は? ふらついてませんし」
「いつもと体調が違うってことだよ。ほら、お言葉に甘えとけって」
(なんか、使い方違う)
 と思いつつ、素直に受け取れない。なぜかといわれたら、そりゃぁ。ナプキンとかの問題で。だからといって、目の前の男の人にいうわけにもいかない。
(ただでさえ、汚れが目立ちやすいのに。しかも、血)
 どういおう。私を抱えたまま、先輩がUターンをする。
「無駄足でしょう、それ」
「無駄足じゃねぇよ。ちょうど、用事があったんだ」
(嘘だろ)
 とはいえ、このバスのおかげで少しは楽なのが事実である。こういう日は、なるべく体を動かしたくない。けれど休む暇がないから動くしかないのが真実。体を抱え直される。さっきより、振動が軽くなった。先輩の胸に頭を寄せられる。心臓の音が聞こえた。
「入る前に下ろしてくださいね」
「へいへい」
 こんなことなら、別の生理用品も検討した方が良さそうだ。そう思いながら、先輩に運ばれた。


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