ナンとカレーあまい(卒暁後)

「って、ことがありましたねー。それが今や、これですよ」
「うっせぇな。心眼通を会得したあと、舌も敏感になっちまったんだよ」
 おかげで、少しのスパイスにも反応する体になっちまったぜ。と先輩がいう。まぁ、あれで猫舌にもなったんだ。それからこんにゃくの闇鍋騒動もある。全てを見通す力を得た代わりに、失うものも大きかったんだろう。おかげで全身敏感になったんだし。以前より。と思いながらカレーをもう一口食べる。先輩は、中辛より上を食べれなくなった。しかも、中辛の方でもまだ辛くない方までしか、である。
 あまり辛くないカレーを、先輩が口に運ぶ。
「舌が馬鹿になるよりはマシだがな」
「そうですね」
「あっ、でも。こんにゃく判別には役に立ったぜ!! 寧ろ、前よりもさらにこんにゃくの味がわかるようになった!」
「そうですね」
「んだよ。ノリ悪ぃなぁ」
「想定内のことでしたから」
 こんにゃくの話を持ち出すの。それと、こんにゃくの判断が付くの。そう伝えたら、ボッと先輩が顔を赤らめた。
「そ、そうか」
「えぇ。ところで、それってそんなに辛かったっけ?」
「かっ、辛くねぇよ!」
「そう。でも、思い出しますね。最初にカレーを食べれないと発覚した日。あのとき、一生懸命完食しましたよね」
「あぁ。ありゃぁ大変だったぜ。なにせ、前まで食えてた辛さに舌がピリピリしやがる。ついでに口ン中も熱ぃ」
 おかげで食えたもんじゃなかったぜ、と先輩がいう。うん、確かに私も食べれない辛さだ。でも、人には人の裏技というものがありまして。
「ラッシーとか頼んで、辛さを中和しようとしたのも懐かしい」
「だな。挙句の果てに、店員に下げられたりしてよ」
「あれは悲しかったですね。もう少し、頑張れたのに」
「一皿で二時間も粘られちゃぁ、堪ったもんじゃねぇだろ」
 強制回収だぜ。という先輩になにもいえなかった。けど、今はそうじゃない。甘口だ。甘口だからこそ、食べられる。
「でも、ちょっと。うん」
「あ?」
「量、甘く見積もってたかも」
「なんだったら、食ってやってもいいぜ? 甘口だし、腹もまだ余裕だからよ」
「うん。頼みます」
 頑張れば食べれるだろうけど、後がある。食べれない量だけを、先輩に渡した。フォークでグサッと突き刺して、口に運ぶ。モグモグと食べてから、またもう一口食べた。
「やっぱ、男の人ってよく食べれるなぁ」
「当たり前だろ。お前と腹の造りが違うんだぜ? っつーても、胃袋の容量か」
「そうですね。先輩がいると、量の判断誤ったときに助かりそう」
「おう。いつでも頼ってもいいんだぜ」
 と太鼓腹を叩いてきたけど、先輩のお腹は膨れてない。いや、確かに少しは膨れているけど、なんというか、その。うん。
 先輩の身体を見る。相変わらず、鍛えられた筋肉でスッと引き締まった感じだった。なのでお腹の方も、少し膨らんでいるものの腹筋は落ちてはない。
「それ、全部筋肉になるんですか?」と先輩の食べた物を指して聞く。それに先輩は「おう。当たり前だろ」と答えた。もう一口を食べる。お皿に残った一口は、自分で食べた。
 少しだけ空いた隙間に、この一口分がピッタリと嵌まる。今はそれ以上入らない。間を埋めるために、ラッシーを飲む。これでも、満腹感は消えなかった。
「どうしよう。デザートも食べれるかな」
「一口だけは食っておけよ。あとで後悔してもしらねーからな」
「うん」
 そうしよう。とりあえず食べれない分は先輩に渡す保険だけを張って、残りがくるまで待った。
 私も先輩も、お皿の中が空っぽだった。


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