大繁盛で疲れる(卒暁後)

 雨の日にコンニャクがよく出る、なんて話は聞かないけど。今日はとにかく、コンニャクがよく出た。お客さんの入りもよかったし、一度に注文する量も多い。もしかして、買い溜めかな? しばらく来ないかも。そう考えて、空っぽのザルを片付ける。いつもよりスピードを上げたからか、工房で先輩が伸びていた。
「あー、つっかれたぁ」
 昔と比べて、足をテーブルに放り出さないだけマシかも。椅子に座って、長い足を伸ばす。疲れたのか、靴が少し脱げていた。
「お疲れ様」
「おう、お疲れ。今日はもう閉めようぜ。疲れちまった」
「そうだね。とりあえず、本日分は売り切れましたってしておいて」
「明日、朝一で仕込むわ」
「ん、間に合うの?」
「間に合うに決まってんだろ」
 舐めんじゃねぇぞ、って先輩が腕捲りをする。今ので、もう疲れてるのに? 疑問に思いながら、使ったザルを洗う。じゃぶじゃぶと、水洗いでいっか。あとは天日干しみたいにして乾かすだけで。ガタンと片付ける音を見たら、先輩が立ち上がっていた。靴を履き直し、椅子をカウンターに戻す。そのまま、ガチャガチャと音がした。店仕舞いは、先輩に任そう。ザルを斜めに置いて、テーブルを拭いた。順序逆じゃない? 毎回使う度に拭いているから、セーフか。残りのテーブルもアルコール消毒する。最後にモップを取り出し、床を拭いた。床まで、消毒は無理かな。換気だけはしておこう。裏口を開放し、空気を循環させる。キュッキュッと濡れた床を拭き、コンニャクの灰汁について考えた。──あれに、消毒作用があったら楽なのに──。モップの洗浄も考えていたら、先輩が戻ってきた。ちょっと覗けば、シャッターが下りている。ちゃんと張り紙をしたんだろうか? 欠伸と伸びをしながら、近付いてくる。
「なぁ、千芳」
「なぁに」
「疲れたわ」
 用件を尋ねれば、手を広げてくる。まるで「ハグしてくれ」といわんばかりに。こっち、今掃除しているところなんだけどなぁ。モップを引き摺りながら、ツツッと先輩に近付いた。
「どーん」
「そうじゃねぇだろ」
 はぁ、と溜息を吐きながらも抱き締めてくる。衝突事故を起こしたのに。先輩の胸に肩を当てたまま、ハグを受けた。先輩がグリグリと顔を擦りつけてくる。肩に。ちょっとだけ痛い。「はぁ。千芳」と感嘆の息も漏らした。ムクリ、先輩が顔を起こす。身長差もあって、先輩を少し見上げる形になった。
「今日、なしで」
「当たり前でしょ。ゆっくりしようよ」
 疲れてるんだから。そう今夜の誘いを断った先輩に返した。そもそも、先輩がいつもシてくるじゃん。どんよりと疲れた顔の先輩に、棘で返す。そうしたら頭に顎を乗せられて「今日はこうしていたい気分なんだよ」と駄々を捏ねられた。それ、って。少し反応に困る。顔に熱が集まりながら、頭上で「あー」と呻く先輩の声を聞いた。


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