寄贈の鉢植え(卒暁後)

 帰ると、商店街から貰ったのらしい花を持つ先輩がいた。両手で持てるぐらいの鉢植えを手にして、ポツンとリビングに立っている。その様子がおかしくて、先輩に声をかけた。
「ただいま。どうしたんです?」
「あっ、千芳。それがな」
 そういって、先輩が語り出す。どうやら、顏馴染みになった商店街の人と話し込んだ結果、花を貰うことになったのらしい。そういえば、売れ行きが悪いって、この前聞いたな。それにしても、どうして先輩に。(男なのに)花屋の主人は、女の人だ。別に、同性愛だとかは聞いていない。どうしても、嫉妬みたいなのが出てきた。
「どうせ売れずに腐らせるだけなら、貰ってくれといわれちまってよ」
「なら、その店主が悪いのでは? 中途半端に育てるから」
「は、オイオイ。ご近所さんに向かって、その口はないだろ?」
「フンッ、知らないもん。先輩の馬鹿」
「いや、どうしてそこで怒るんだよ」
 わけわかんねぇ、なんて先輩はいうけれど、私にとっては問題だ。嫉妬という感情は、ひどく厄介なのである。プイッと反対側に向かって歩く。気付いたときは壁だった。
「なんだ? そこになにかあるのかよ」
「別に」
「んだよ。ピリピリしやがって」
 お前の動向読むまでもなく、わかるぜ。といわれてイラッとしてしまう。つまり、傍から見てわかりやすいとでもいいたいのだろうか?
(ムカつくっ!)
 だったら、始めから私の気持ちも分かれってんだ!! プンプンと怒ってしまい、壁に向かって腕を組んでしまう。元々、台所に行くつもりだったのに! 壁に向かって怒っていると、後ろでゴトンと音がする。なにか重い、直近でいえば土の入った鉢が置かれたような音だ。
「なぁ。おい。なにに怒ってんだよ」
「別に」
「おいおい、いってくれなきゃわからねぇぜ?」
 流石の俺でも、心眼通──いや、奥義開眼を以てもわからねぇぜ。と付け加えてくる。(うるさい)知らないったら、知らないもん。プイッと顔を背いても、真上からの影が消えないし、視界にない反対側に先輩の腕があるだけだ。壁に手を付けて、逃げ場の一つを奪っている。
「なぁ、おい。千芳ってば、おい」
 段々と気落ちしていく。私が反応ないからだろうか? 流石に、良心が痛んだ。(でも)流石に、嫉妬している原因と状況はいえなかった。なにせ、その。聞くのが怖い内容もある。考えすぎて、気分も悪くなってきた。それを別の意味に捉えたのか、先輩が「なぁ」と情けない声を出してきた。
「その、俺がなにかしたのなら謝るからよ。少しくらい、聞いてくれたって、いいじゃねぇか」
「そ、の。そういう意味じゃなくて」
「どういう意味だよ」
『嫉妬の意味とは』という項目が頭の中を過る。けど、グリグリと旋毛に顔を押し付ける感触の方が先だった。身体の位置は動かさず、頭だけを動かす。これは、先輩の躊躇いも示しているんだろうか? グズッと、頭上から鼻を啜る音が聞こえる。
「なぁってば、おい。千芳」
 千芳、と。仕舞いには泣き出しそうな始末である。どうしよう。グッと不安を飲み込み、声を出した。
「あの」
 いいだすと、キリがない。なるべく、要点だけを述べよう。質問の。急所を外して、確証を得られる情報を引き出して。
「その、花を貰ったじゃないですか」
「おう」
「その、他にもなにか話したのかな、って」
「なんだ、嫉妬かよ」
 その能天気さに、思わずアッパーを食らわせそうになった。けど、私の方が先輩より子どもじゃない自信がある。グッと不満を飲み込んで、組んだ腕に力を入れる。
「ばっ、かみたいに突っ立ってたものですから。なにかあったんじゃないかと、思っただけです」
「本当に、それだけかぁ?」
「それだけです」
「本当にかよ」
 声色を荒げないように気を付けたはずなのに。流石、裸の状態でも心眼通が衰えなかっただけある。ギリッと歯を噛み締めて、図星を隠す。それに、先輩がジィっと見てきた。距離が近付いて、空いた片手で自分の顎を撫でているようだ。
「ほーう?」
「な、んですか」
「いや、別に」
 よ、といって先輩が口を開く。
「『恋人』にやるのもどうだ、っていわれて譲り受けただけなんだがよ」
 その発言に、今度はこっちの顔に火が付いた。


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