恥ずかしい(卒暁後)

 この国は結構、病でないと変わらないところもあるのらしい。必要最低限の外出をしていると、結構変わったところがある。テイクアウトを受け付けたり、特別価格で出していたり。この煽りを受けて、色々と生き残りに画策している感じだ。(私も、人のこといえないけれど)コンニャクも、ちょっと生産数落ちてるし。これは少し、申請とかした方が良さそうだ。そんなこと考えてると、一軒のお店に気付いた。気になるところで、看板が出ている。
「あっ。テイクアウトやってる」
 自然といってしまった。慌てて口を押さえたけど、もう遅い。先輩が気付いて、足を止めてしまった。
「あー、行きてぇのか?」
 気を遣わせて悪い。単純に、気になっただけなのだ。それにどう答えればいいかわからず、顔を逸らす。迷ってると「千芳」と声をかけてきた。
「行きたいってぇなら、寄るぞ?」
「うぅ。その、どちらかというと」
『行きたい』って気持ちと『行きたくない』っていう気持ちが交錯する。後者は、単純に面倒臭くて、前者は好奇心だ。煩雑さと好奇心、どちらが勝ってるかと聞かれたら、前者だ。
「気になってはいたけど、行く気がなくて」
「俺とでもか?」
 恐らく、それは多分「行く気がない」を『行く勇気がない』と捉えたんだろう。それは確かに、合ってるのは合ってるけれど。でも、どちらかというと面倒臭さが勝ってる。
「ん、その。お店の雰囲気とかが、難しくて」
「まぁ、お前を連れて行くには、ちょっと気が引ける場所だからな」
 それは、いったいどういう意味だろうか? ジッと考えてたら、先輩が「ぐっ」とジト目で見返してきた。
「仕方ねぇだろ。その、変な目で見られるかもしれねぇしよ」
「『変な目』って?」
「その、あれだ。あれ」
『あれ』と示すばかりだから、わからない。なんか、男の人にしかわからない悩みというのもあるんだろう。「そう」と返せば、また先輩がジト目で見てくる。今度は横からだ。「本当にわかってんだろうな?」といわんばかりの不満である。
「とりあえず『男の』ってメニューが付いてるの、気になります」
「おー、そいつは多分ニンニク増し増しのヤツだな」
「ニンニク」
「滅茶苦茶口の中が臭くなるぜ? 嫌だろ?」
「うっ、確かに。嫌、かも。体臭もだし。美味しいけれど」
「多分、店もあんな感じだぜ?」
 うっ! その推論に手も足も出ない。確かに、いわれてみればそうかも。『男の』というか、男性をメインにしたこの国の店だと、そういうのに一切の気も回さない。
(ある意味、先輩がそういうのに気を回す人で良かったかも)
 たまに、裸に近い状態で歩くけど。部屋の中を。特にお風呂上り。人の目のやり場ってものを、考えてほしい。そう考えてたら「ん?」と先輩が見てきた。顔はこちらへ向けてない。見上げれば、先輩の顎しか見えない。あ、ニヤリと笑った。
「どうした?」
「別に。なんでもないです」
「ほーう? それが、なんでもない顔ねぇ?」
「うっ、るさいですね。そのニヤケ顔、やめてください」
「ほほーう? ニヤケてるって、どうして思うんだ?」
「ばっ」
 か、といおうとしたけど、出てこなかった。自信満々な先輩の顔を前にすると、なにもいえない。どうせ、なにをいっても自慢に思えてしまうんだろう。クッと顔を逸らす。上から「ククッ」と喉で笑う声が聞こえた。
「んなに気になるんだったら、今度買ってきてやるぜ? メニューとかは多分、ネットで見れるだろうし」
「うっ、そうですけど。自分の目で確かめて、みたかった」
「味だけにしろよ」
 です、と言い切る前に、頭に手を乗せてくる。「どうせ、期待を裏切るだけだぜ」と、乗せた腕越しにキスをするのは、やめてほしい。恥ずかしくなる中で、顔を覆った。


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