キョトンとする(在学時)

 ピョンッと先輩が高台から降りる。基本的に、有事のとき以外に四天王が動くことはない。もし動いたとしたら、各々が独自に動いているときだけだ。私はというと、ドローンで下町の様子を見ている。蟇郡先輩は貧民窟だというが、私にとっては下町だ。ちょうど、戦後すぐの辺りにあるような。そう思いながら不審な点を眺めていると、スタスタと先輩が近付いてくる。ポンッと私の肩に手を置くと、そのまま覗き込んできた。真上から画面に、影が落ちてくる。
「見にくい」
「まぁだ、やってんのかよ」
「新作のチェックですから。実用に最適かどうか」
「ふぅん」
「ベルトのトゲ、さり気に頭に当たって痛いです」
「そうか」
「直してくださいよ」
「やなこった」
 ムカッ、今ムカッときた。ムカッと。三回同じことをいってしまいそうになるほど、ちょっと腹に据え兼ねた。ドローンを操作する。うっ、自分で動くよりも、なんかこう、使いにくいな。グルグルとスティックを回したら、画面酔いをしそうになる。
「うぅ」
「あーあ、ヘタクソだなぁ、オイ。俺に貸してみろよ。お前より上手く使える自信はあるぜ?」
「先輩より、犬牟田先輩の方がよっぽど良いですから。壊しそうだもん。柱にぶつけたりして」
「あぁ? そんなヘマはしねぇよ」
「信じられない。この前、試作品で散々ぶつかったじゃないですか」
「あ、あれは!! たまたま当たっただけの話だろ!? 慣れたらあんな真似はしねぇよ!」
「本当かなぁ。信じられない。とりあえず、ここからこう、戻って」
 あっ。と、先輩と私の声がハモった。本能字学園の関所みたいな門の上をいくつか通り過ぎて、ようやくここ。姿を見せたと思ったら、運動部の投げたボールに当たって壊れてしまった。ストライク? ホームラン? それともバッテリーとファウルとか? なんだかよく、わからない。先輩の方を見れば、ポカンとした顔で墜落するドローンを見ていた。
「えっと、耐久性の問題として報告するから、大丈夫ですよ。ところで、あのボールはどこのなんですか?」
「あ? あー、野球部だな、ありゃあ多分」
「そうですか」
 答えた割には、懸念材料が消えてないような顔をしている。俯き、顎に手を当てて難しい顔をしながら考え込んでいる。「運動部の予算から引きませんよ。修理費」高価なドローンにかかる費用のことだけを伝えたら、ホッと先輩が胸を撫で下ろしたような気がした。
「そうか」
「その代わり、その運動部のデータは取らせてもらいますけど」
「そうきたか」
 やっぱり、といいたいぐらいに先輩が落胆する。そんなに自分の手の内を見せるのが嫌なんだろうか? そういえば、乃音先輩も同じように嫌がる。風紀部委員長の蟇郡先輩も、情報戦略部のトップで司令塔である犬牟田先輩も、生徒会で共有する情報以外のことも喋らないし。意外と、意地を張ってるのらしい、のか? と思いながら、壊れたドローンを拾いに行った。先輩も付いてくる。まだ、視察は続いているのだろうか?
「もうそろそろ、戻りますね? 色々と参考になりましたし」
「あっ、おう」
 だから、そうキョトンとするのはなんでだろう。そう思いながら、先輩の顔を眺めた。


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