ホワイトデーのお返し

 土日祝日があろうとも、関係なく店は開く。だって、コンニャクを求めるお客さんはいるし、スーパーとかへの配達も同様。けれども、どうも今日の先輩は可笑しい。朝から様子が可笑しい。なんかソワソワとしたり、昨日に至っては一人チョコフォンデュなるものをしていた。食べようとしたら「ダメだ!」の一点張り。どうも切羽詰まってたのでそのまま身を引いたけど、食べたかった。そんなことを思いながら昼まで頑張ってると、ヒョッコリ先輩が出てきた。店に入ってから、一度も会話を交わさなかったのに。あぁ、業務的な会話はやってたっけ。
「なぁ、千芳」
 後ろ手になにかを隠している。新手のコンニャク芋だろうか? 正直、コンニャクの加工業務で忙しいのだけれど。
「きょ、今日。ほ、わいとでーってヤツだろ? やるよ」
 挙動不審でしどろもどろ。カッと顔を赤くする。さっきまで平熱気味だったのに。この差に驚いてると、先輩がなにかを差し出していることに気付いた。
 プレゼントだ。長方形で四角くて、平べったい。「ありがとう」といって受け取ろうとすると「あとな!」と先輩が大きく声を張り上げた。
「玉コンニャクのチョコレートフォンデュもあるぜ!? く、食うか!?」
(あぁ、やっぱり)
 チョコレートフォンデュ、コンニャクでやるつもりなんだな。としみじみと思った。正直、冷蔵庫に白い玉コンニャクが入ってる時点で気付いてた。「白玉とか、お餅系なら美味しいと思うけど」といえば「改良したぜ!」と胸を張る。ふぅんといって、チョコレートフォンデュを探す。そんな漫画みたいに、ドーンッと出されたわけじゃないのだ。当然、冷蔵庫にあるのかと思う。開けると「そこじゃないぜ」と先輩が後ろから扉を閉める。コンニャクのストックは奥に消えた。先輩が少しずれて、一つ横の冷蔵庫を開いた。
「ここだ、ここ。ほら、チョコレートは温めれば食えるぜ!?」
「うん。確か、鍋もレンジもあったし大丈夫だね」
「おう! ま、とりあえずレンジでいけるだろ。耐熱容器選んだしな」
「ふぅん。じゃぁ、玉コンニャクは?」
「いつでも食べれるように、調理済みだぜ!!」
「そっか」
 なら心配ない。先輩が準備をしている間、包装紙を開ける。なるべく糊を付けた方に沿って、そっと。丁寧に破く。中身を取り出せば、高級そうなチョコレートだ。(当たり外れがあるんだよな、こういうの)外国産のだと特に大きい。外れを覚悟して、蓋を開ける。すると、繊細で精巧な飾り付けを施したチョコレートが現れた。
(あ、当たり)
 手頃なチョコレートを一つ抓んで、ポイっと口に入れる。職人の繊細な技術が、チョコレートの味に映えた一品だ。トロッと口の中で蕩けて、濃厚なミルクチョコレートの味が広がる。それに満足していたら「あっ」と先輩が声を上げた。
「それとオマケで、これもあるけどよ。食うか?」
「えっ、食べる!」
 出てきたチョコレートを挟んだクッキーに、思わず声を上げてしまった。それに、先輩がムッと顔を顰める。あ、男心って難しい。
「んだよ。高ぇチョコや玉コンニャクよりもそっちの方が良いってか?」
「違うよ。ただ、心おきなくパクパク食べれるって意味で。そういう意味で安心できるの」
「ふぅん。そうなのかよ」
 どうも納得できてない。「それに、二つあるじゃん」というと「まぁな」と先輩がいう。「それ、二人で一枚ずつ食べれるってことだよ」と伝えれば「ふぅん」とまた返ってきた。なんか、まだ納得してないな。これ。
「このチョコレートと玉コンニャク、クッキーとでは別物ですよ」
「ケッ、そうかよ」
「私は先輩に、三種類の贈り物を貰ったってことに近いんですから」
 つまり、プレゼントを三つ貰った。そのことを伝えると、キョトンとした目で見つめてきた。さっきまで『どうせ、安い方がいいんだろ!』と捻くれてた顔をしてたのに。
「一流のパティシエが作ったチョコレートと、先輩の作ったチョコレート。それと市販品のいつでも食べれるのとで、最高じゃないですか」
「はっ? なんだ、そりゃ」
「パティシエの作ったのは、今日の一日の記念品。先輩のは愛情の塊で、クッキーは今日という日を思い出す」
 あ、これわかってないな。キョトンとした顔をしてる。「おわかり?」と聞くと「はぁ」と曖昧な返事がきた。
「つまり、三つ贈り物をしてありがとうってことですよ」
「でも、クッキーで喜んだことには変わりねぇだろ」
「私にとっては、こういうことなの」
『女の人にとっては』といわなかっただけ、私はまだ偉いと思いたい。先輩の襟元を引っ張って、引き寄せる。少し屈んだところで背を伸ばせば、チュッと届いた。ほんの一瞬だけだけど。それに、先輩が目を丸くする。「は」と呟いてから、徐々に顔を赤くした。あ、さっきのとは比が違う。ゆっくりと、顔に血が昇ってる。
「こういうこと。おわかり?」
「は、はぁ」
 多分、わかってないだろうけど。まぁ、気持ちだけ伝わればいいか。
 細かいところは共有できなかったけど、一緒にチョコレートを食べて過ごした。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -