仰々しい

「欧米だと生理休暇があるらしいですよ。先輩も、男性も風邪とかで休んでるんだから、そういうのやりましょうよ」
「もうやってんだろ。既に」
 資料を纏めたら先手を打たれて、逆にビックリした。『既に』って? 確かに具合が悪いときは休ませてもらったが、申請した覚えもない。もう少し深く考えると、『病気休暇』なんてものも聞いた覚えもない。先輩の口から。「うち、そんなに進んでましたっけ?」と聞くと「はぁ?」と返される。どうやら先輩の頭にはなかったようだ。欧米の労働者に優しい先進国の考え方は。
「いえ。欧米だと労働者のストライキが盛んなので、そういった申請も企業が認めてるので」
「ストライキは勘弁してほしいぜ。コンニャクの製造が滞っちまう」
「そう。じゃあ、家出をしても問題がないと」
 所感を漏らしたら、ゴトンと手にしたコンニャク芋が一気に落ちる。どうやら、それとこれとは別問題のようだ。固まる先輩の代わりに、転がるコンニャク芋を拾う。
「製造が止まってしまうのは辛いけど、個人で経営してるようなものですし。個人の事情で休んでも問題ないのでは」
「お、おい。さっきの」
「以前、一身上の都合で休みましたし。先輩」
「いや、それよりもな。おま、千芳。お前、なんつった?」
「別に風邪とかの都合で休んでもいいと思う」
「んなことより、もっと大事なことがあるじゃねぇか!?」
 急に声を荒げてなんだと思ったら、先輩が驚いている。今まで見たことがないくらいに、ギョッと目を見開いて私を凝視している。手もなにかいいたそうに開いているし、肩もワナワナと震えている。さて、大事なこととは? 私と先輩の会話を思い出してみるが、どうもあの一点しか思い当たらない。
(そんなに重要なことなの?)
 冗談でいったつもりなのに。けど、あの反応を見るにそうじゃなかったんだろう。拾ったコンニャク芋を台の上に置いて、先輩に向き直る。
「冗談ですよ。そんなわけ、ないでしょ」
「だ、よな。はぁ」
 よかったぜ。といわんばかりに先輩が溜息を吐いた。仰々しく胸も撫で下ろしちゃって、どうしたんだろう。オーバーリアクションすぎるなぁ。と思いながら、コンニャクの様子を見に戻った。


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