ゲーセンでの出来事(卒暁後)

 今年はうるう年のようだ。二が連続で並んで、しかも四年に一度の日。なんというか、二に因んだ年だな。そう思いながら、連続で高ポイントを出し続ける先輩を見る。
「良い曲ですね、これ」
「気が散る!!」
 そうボヤいても、しっかり聞いてくれるものは聞いてくれるのらしい。しかし、高得点を出すのに躍起になってる。太鼓の達人は一瞬たりとも休ませてくれない。寧ろ、この精密な動作と集中力、うわ、すごい。連打しまくってる。
(この間に反応してくれただけでも、惚気てもいいものか?)
 それだけ、声に敏感に反応してくれたことだし。一曲が終わり切ると、先輩が脱力した。ガクッと肩の力を抜き、ぜぇぜぇと息をしている。画面を見ると、なんかとても高いランクが出ていた。
「うわ、すごい」
「ヘッ、そうだろ? これで、纏のヤツに勝てる!!」
(とは限らないんだけどなぁ、といわない方がいいんだろうか)
「譜面が鬼畜だから、良い練習になるんだぜ。これ。曲も上がるしよ」
「わかる」
「ちょいっと休憩でランク一つ下げるか」
 そういって、先輩が曲を選び直す。「同じミュージシャンのを選ぶんですね」と尋ねたら「あ? あぁ」と聞き返して頷かれる。
「練習にちょうどいいんだよ。気分も上がるしな」
「ふぅん」
 それはわかるかも。さっきと同じことをいいながら、スマホを取り出す。齧ったリンゴの音符を開けば、検索候補に出てきた。一曲だけ流す。あ、これだ。
「普通に聞けるっぽいですね」
「ふぅん。聞くのか?」
「まぁ。聞いてみようかな、と」
 顔を上げたら、もう太鼓を叩いていた。視線は画面に釘付けになっている。ドドンドンドンと無意識で譜面を叩いてた。腕と手首の動きも速い。
「慣れてるんですか?」
「あ?」
 一瞬だけ先輩の視線が私に逸れる。太鼓の音符が小休憩を挟んだ一瞬だ。流れるとすぐに画面へ戻る。
「だな。中坊んときに、ゲーセンに屯ったことがあってよ。そこで舎弟たちと遊んでたんだよ」
「へぇ」
「千芳もやってみるか?」
 フィニッシュを決めながら、先輩が尋ねてくる。また高得点を出していた。確か、達人だとそれより上を狙えるんだっけ?
「ううん、見てるだけでいいや」
 どちらかというと、聞き専である。「他にないの?」と聞けば「あるぜ」と返ってくる。そして後ろをチラリと見た。私も見る。待ってる人はいない。もう少しだけ、太鼓を占領できるようだ。
「なんか聞いてみたい曲とかあるか? 叩いてやるよ」
「うーん、バチの音が楽しいヤツ」
「なら、こっちだな」
 バチを親指と三本の指で支え、人差し指で操作する。ポチッと次の曲が出た。ジャケットが表示される。太鼓の妖精より、ジャケットに目が行った。
「あっ。あのデザイン、良いかも」
「そうかよ。ちょいっと集中するからな。喋るなよ」
「うん」
 と間を置かずに曲が始まる。さっきと同じ鬼畜だ。連続で重なる音符を先輩のバチが瞬時に叩いていく。妖精さんの「グッド!」とかいってる音が煩い。
(もしかして)
 剣を振るう筋力と動体視力をこれで鍛えてるとか? そう思いながら、太鼓を叩く先輩の弾き出すコンボを眺めた。


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