ハロウィンのコンニャク(卒暁後)

 今日は不思議なことに、子どものお客さんが多かった。それも仮装をして、コンニャクを買わず、お菓子を貰うだけ。
「あ? 忘れてたのかよ。今日はハロウィンだぜ、ハロウィン」
 そういわれて、今日の日付を思い出した。
「えっ、一〇月三〇日でしたっけ?」
「ばぁか。三一日だよ、今日は」
「え、えー。でも、ハロウィンって、確か三〇日じゃ?」
「はぁ? 三一日だぞ。三一」
 頭ボケちまったのか? と先輩から失礼なことをいわれたが、そうじゃないと思う。試しにインターネットで検索をかけても、『一〇月三一日がハロウィン』と出た。それも『毎年三一日』とだ。
「え、珍しい」
 先輩がコンニャク以外で、間違えることがないだなんて。
「おい。どういうことだよ。そりゃぁ」
「うるう年と間違えてたのかな。二九日、四年に一度」
「それとハロウィンは関係ねぇだろ」
「思い違いです」
 記憶違いの原因を突き止めると、すぐ今日の売上に思い当たった。そういえば、一番売れたの、昨日だ。カボチャの煮付け。そぼろ煮とあんかけにゴマ和え。全部コンニャクを添えたり和えたりしたものだけど。
「昨日の方が、売り上げが多い」
「はぁ?」
「カボチャ関連の売り上げがです。まぁ、コンニャクはちょっと落ち込んでたけど」
「うるせぇ! ふ、袋田んところから送り返されてねぇだけマシだろうが!!」
「そうですね」
 一時期コンニャクの大不況を扇いだときよりはマシだ。コンニャクの求心力が落ちた理由も見直さないとだけど。
「製造業も大変だなぁ」
「やっぱよ」
 ポツリ、と先輩が店の片付けをしながらいう。
「コンニャクで作ったスイーツ渡した方が良かったんじゃねぇのか? タピオカとかよ」
「コンビニのタピオカならコンニャク使ってるし、女子高校生ならともかく。普通にウチがタピオカ屋になりますよ」
「やめねぇぞ!?」
「そうですね」
 ただ、それ以上にタピオカの求心力と原価に比べて売価の差による莫大な収益があるのは、事実である。
「でも、コンニャクのオヤツって」
「あるだろ。コンニャクチップスとか氷コンニャクとか。あっ、お袋がコンニャクでみたらし団子とかわらび餅とかも作ってたぞ!?」
「あぁ、食べ歩きにはまったく向かないし、どちらかというと年齢層高そうですね。ジャンクフードで、だと中々。でも」
 検索すると、気になるレシピが出てくる。
「ジャーキー風を目指してみますか。来年辺りにでも」
「おう!」
 十円とかの商品で、一口ジャーキー売ってたはずだし。お菓子にはなるだろう。「おつまみじゃん!」って突っ込まれたときは、キャンディでも渡せばいいや。
(でも)
 はしゃぐ先輩には悪いけど、こう思ってしまう。
(やっぱり、皐月様や乃音先輩、マコちゃんや流子ちゃんと一緒に仮装して、ハロウィン特典とか割引とかのあるスイーツ巡りとか、したかったな)
 ピコンとラインに上がってきた楽しそうな写真を見て、そう思う。
「はぁ、平日働く組には大変だなぁ」
「あ? なにがだよ。っつか、この日は休めねぇだろうが。ご近所付き合いも大事だしよ」
「そうですね」
「地域に密着したコンニャク作りも、大事だと思うぜ? 俺はよ」
「そうですね」
 そう先輩のコンニャク論を聞きながら、流子ちゃんとマコちゃんと皐月様と乃音先輩のいるグループラインに返信を送った。
『やっぱり行きたかった』
『ドンマイ!』
『猿くん変に真面目だからねぇ』
『店の経営も大変だろう。手伝ってやろうか?』
『今度会ったときにお土産渡すから元気出せって』
(皐月様、流子ちゃん)
 二人のフォローにホロリと涙が出てきた。けれども、猿投山コンニャク本舗の看板を背負ってる手前、あまり先輩が頼りたくないだろうな、多分。変に男の意地を張る先輩のことを思ってたら、のっそりと本人が後ろから顔を出してくる。そのままラインの中身を見ようとしてきたので、手で目を覆ってから後ろへ押し返した。
 片手で視界を塞がれながら、先輩が後ろへ下がる。
「なんだよ」
「プライバシーって、知ってます?」
 そう返すと、先輩が黙った。


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