ホラーゲーム

 大阪で食べたあの肉まんの味が忘れられなくて、インターネットで探す。するとすぐに見つかったので、早速クリックしてサイトに飛んだ。並ぶ中華まんとシュウマイやチマキの種類を見ながら、あのときの味を思い出す。豚まんの成分表を眺めていたら、先輩の体が動いた。
「あぁ、くそ」
 肩に連動して腕が動いたものだから、画面を見るとGAME OVER。どうやら操作ミスって死んだようだ。
(だから人を抱えてやるものじゃないのに)
 そう思いながら、先輩の膝の上で豚まんの成分表を見る。スマホの外側で、先輩の手がリトライを押す。
「トラップかよ」
 ゲームに対する独り言なので、なにも答えない。成分表から材料へと移したけど、あの甘さの秘密は書かれていない。どうしてあの白い皮の部分に、生地に、甘さを感じたのだろう。
「えー、確かこの辺りで出たはずだろ?」
 その独り言に視線を上げると、画面内で操作キャラが該当箇所を避けるように動いている。
(というか、なんで抱きかかえてるんだろう。クッション代わり?)
 そう思いながら、豚まんをカートに入れて注文画面に進む。ふむ、送料。
「っつか、お前はやらねぇのか?」
「なにを?」
「コレ」
 と先輩が端的に指すので、顔を上げる。ゲームの中では、未だに化け物との遭遇を避けるようにキャラクターが動いている。
「どうだろう。代わってほしいんですか?」
「べっ、別にそうじゃねぇよ。俺の奥義開眼が使えりゃぁ、こんなもんちょちょいのちょいよ」
「そうですか。なら心配ないですね」
「お、おう」
 ならなんで震え声なんだ。そう思いながら、注文を一旦取りやめる。画面を見ていると、微かな物音がする。そのゲームの環境音に、先輩はビクッと震えた。
「うおっ」
 驚いた声も付いた。先輩の体が一瞬だけ浮いたものだから、私も強制的に浮かされる。そして強張る筋肉の上に座った。
(怖いんですか? と聞きたいけれど)
 多分否定されるだろうしなぁ。相変わらずキャラクターは恐る恐る調査をしているし、先輩の体はビクビクしている。
「どうして」
 聞き方を変えれば、答えてくれるだろう。
「そんな怖いゲームを始めてるんですか」
 そもそも、この手のゲームは苦手だとか興味がないだとかじゃなかっただろうか? そう思って尋ねれば、先輩がピクッと止まった。体の震えは止まって、画面の中の操作キャラクターも動かない。ただ、先輩の心臓だけがドクドクと、速く大きく動いている音だけが伝わった。
「お、お前が」
 先輩の声が震える。
「こ、こういうの、やるより見る方が好きって、いってたからだろうが」
 そう小さくなる声で言い切ると、先輩の代わりに私の顔が熱くなった。というか、先輩の顔も熱くなってるような気がする。
 固まる私の頭に顎を置いた先輩の熱を、間接的に感じながら、そう思った。


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