アイス暑い溶けた

 欧米諸国や赤道近くの国は、暑い。けれども湿気がないのでカラッと晴れている。日本のジメッとした暑さとは大違いだ。
「あぁつぅいぃ」
 この暑さにやられた文月は、床に転がっていた。仰向けでクーラーの冷気に当たる。けれども古いものだから、充分に部屋を涼しくしない。ジワッと皮膚から汗が浮かぶ。額の産毛の生え際から、首まで、熱の籠る場所に汗が滲み出た。
「騒々しいぞ。『心頭滅却すれば火もまた涼し』という言葉を忘れたのか」
「そうはいったってぇ」
 対して猿投山は、畳の上で座禅を組んで我慢をしていた。文月と同じように、ダラダラと汗を掻き続ける。なのに伸ばした背筋は一ミリとも曲げず、ギュッと目を瞑り続けていた。文月はうつ伏せになる。微動だにしない猿投山を見て、一言呟いた。
「せんぱい」
「あ?」
「すきですよ」
 不意の一言に猿投山の集中が途切れる。頑なに閉じた瞼がカッと開き、目が点になる。それから身体中の熱が顔に集まり、ボッと煙を出した。
「そ、そうか」
 湯気を出す猿投山に、文月は頷く。
「そうですよ。なので、解禁しましょう。アイス」
「はぁ? だったら一人で食べろ」
「嫌ですよ。暑い中一人でダラダラを汗を流し続ける男の人を、一人にして。怖い」
「なにがだよ」
「熱中症になりそうで怖い」
 自分を心配する一言である。それに猿投山の熱がまた顔に集まり、煙をまた一つ出す。クッと俯いた猿投山は、目を閉じた。心臓の底を擽られるような、ムズ痒さがある。気恥ずかしさに耐えられない。言い返す言葉も思いつかない口が、とうとう開いた。
「そう、かよ」
「そうです。それに」
 文月は一息置く。
「ちょうど、先輩の集中も切れたし。ちょうどいいでしょう?」
 ねっ、と策を練った文月は、小さく首を傾げる。
(いったい、誰のせいだと)
 心眼通の応用で背後の様子を感じ取った猿投山は、小さく毒づいた。座禅を解く。大股で座敷を通ると、冷蔵庫を開いた。その冷凍室を開く。ついで封を開き、中に入ってたアイスを取り出した。
「ほらよ」
「ありがとう」
 パキッと折った先を渡せば、文月は嬉しそうに受け取った。割った口に舌を伸ばし、シャーベット状を味わう。それでも足りぬと申せば、前歯が硬いアイスの部分を噛んだ。それが文月の口の中に入る。
 猿投山の手の中にあるアイスが、ジンワリと汗を掻いて溶けた。文月が垂れるアイスに気付いていう。
「食べないんですか?」
「食うに決まってんだろ」
 そう返して、猿投山は温くなったアイスを飲んだ。


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