先輩と山の夜空

『今夜は獅子座流星群が見られる』。そうSNSに流れていたのに、夜空には流れていない。横の温もりに温まる。秋の夜長に関わらず、先輩は薄着だ。薄着の剣道着で、座禅を組んでいる。
(寒くないのかなぁ)
 と思うものの、先輩は「これも修行の内だ」といって実行するのをやめない。毛布を手繰り寄せ、先輩の背中に耳を寄せる。脈拍は変わらない。平常心そのものだ。
(つまんない)
 そう思いつつも、先輩の横にいることと流星群を待つことをやめない。せっかく、先輩の修行に付き合うことと星を見ることの両方ができるのだ。それに、せっかくなら流れる星空に願い事の一つや二つをいってみたいのだ。
 毛布を被る手を合わせて、息を吐く。毛布越しに白い息が漏れる。「寒さも修行の内だ」なんていってるけど、本当にそうなんだろうか? 微動だにしなければ、震えの一つも起こさない。まるで、適温な寺の中で座禅を組んでいるようだ。
(本当に、『無』になれば寒さを忘れられるのかな)
『喉元熱さ過ぎれば』なんて言葉もあるし、心頭滅却火もまた涼し、という言葉もあるし。頭の中を空っぽにすれば、本当に?
 試しに集中する。目を瞑る。
 頭を空っぽにしようとしても、雑念が頭に入った。相変わらず、先輩の平常心だけが聞こえる。脈拍に一切の乱れなんかない。また、つまんないとの戯言が出た。
「はぁ」
 それを吐き出すように、息を吐く。代わりに白い息が出たけど、変わりなし。星空も流れないし、先輩も微動だにしない。
(眠く、なってきたな)
 チラッと先輩を覗き込む。あれから、まったく動いてない。
(寝てるんだろうか?)
 疑問に思い、頬を突く。柔らかい。
 続いて口の前に手をやり、呼吸を確かめる。生暖かい息が、手のひらにかかった。生きている。
 もぞもぞと座り直す。
「先輩」
「あ?」
 なんだ、と尋ねてきた声に、ほんの少しだけどビックリしてしまった。
 聞いてるとは思わなかったからだ。
「その」
 尋ねるべきだろうか、と思いつつも尋ねる。
「もう、寝ませんか? 眠くなりましたし。研ぎ澄まされるとはいえ、風邪を引いたら万が一」
「一人だと、眠れねぇのか?」
 断れるかな、と思ったら逆に聞き返される。
 どうしようかな、と悩む。けどここで答えないと、朝まで先輩は座禅を組んでそうだ。邪魔になるのかな、でも正直に答えた方がよさそうだ。後悔、したくないし。
 うん、と首を振って応える。
「そうか」
 といって、先輩は視線を前に戻す。そしてフーッと息を吐いたあと「仕方ねぇな」といって立ち上がった。
 先輩に手を差し出され、重ねる。掴んで立ち上がったあと、先輩に手を引かれたまま歩いた。
 後悔は、せずに終わった。


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