19-1

全くどうしたものか…と目の前に広げたモノを眺める。

それは、昨日プレゼントで頂いて洗濯した寝巻き。
寝巻きと言っても、普段私が着ているシンプルな上下のパジャマなどではなく、中世か、と言いたくなるようなネグリジェだ。

ペールトーンの薄いピンクで、足元まですとんと落ちるシンプルなシルエットではあるものの、所々にリボンとフリルがあしらわれており何とも可愛らしい。
それらの飾りも決して過剰ではなく、アクセントになる程度で、大人っぽい可愛さなのだが、普段シンプルなものを好む自分としては、ピンクとリボンというだけで自分には似合わないだろうな…と何とも気恥ずかしい気分だ。

まぁ、頂いたものだし、一度は着てみて、あとはしまっておこう…と一人で頷き、それを畳んでバスルームの籠に放り込んだ。

今日は尾形さんがウチに来る予定だったが、届いたメールを見ると仕事が立て込み、来られるのが何時になるか分からないとのこと。
「先に寝てろよ」という短く添えられた言葉に甘えて、今日は簡単に夕飯を済ませたあとは、中世の貴族よろしく、ゆっくりお風呂に入って、久しぶりに身体のメンテナンスでもしますか、と伸びをしたのだった。



ガチャ…という音に目が覚める。
……色々済ませたあとベッドに入ったらすぐに意識を手放してしまっていたらしい。

冷え込む空気にブルッと身体を震わせて布団を首までかけ直していると、寝室のドアが開いて、寝巻き姿の尾形さんが入ってきた。 

「……ん、尾形さん…お疲れ様です…」
「…起こしたか?悪い。…てか、俺も疲れたからもう寝る」と、ぐったりした尾形さん。
ベッドサイドの置き時計を持ち上げて、ちょうど日付が変わろうとしていることを確認すると、疲れたように溜め息をついた。

ベッドの端に寄って尾形さんのスペースを作る私に満足げに目線をやり、スルリと布団の中に滑り込んでくる。
「…つかれた」と珍しく素直な尾形さんは、横から私を抱き締めて首筋に唇を寄せて……ガバッと布団をめくってすぐに起き上がる。

「うわっ、ちょっと、サムイ!」と身体を縮めて悲鳴を上げる私を怪訝な顔で見下ろして、「…ナニコレ」と一言。

…あ、そういえば今日は。

「…何でこんなヒラヒラしたの着てんだよ。なにコレ。ワンピース?似合わないんだが」と辛辣な言葉に、うっ…と言葉につまってしまう。
こっちだって似合わないのは承知だってば!

「…プレゼントでもらったの。申し訳ないから一回くらい着ないとでしょ。今日だけだからそんな意地悪言わないでくださいよ」と小さく睨むと、
「…誰だよそれ、男じゃねえだろうな」とコワい顔。
と、尾形さんは慌てて口元に手をやって、すぐ後に、「…誰だよそれ、そんな趣味わりーのプレゼントにするやつは」と真顔で言い直す。

…ちょっとちょっと、本音が出たあと建て前言ったって意味ないですって…と、そんな風になるくらい疲れ果てた尾形さんを思い、少しだけ同情。

「このパジャマ売ってるセレクトショップの人だから、そりゃこのパジャマをプレゼントにしますよ」と見上げて、「…女性ですからね」と付け足す。
「フーン」とジロジロ下から上まで見回したあと、やっぱり眠気が勝るのか、不満げながらもベッドに戻ってくる。

「…変なトコこだわってないで寝ましょうね」とニッコリ作り笑顔で子供に言うみたいに諭して、暴言の仕返し。
するとムッとした尾形さんは「…こだわってない」とこっちを睨んで拗ねた顔。全く…。

…こだわってますって、と、心の中で呟いた。
意外と周りの環境の変化に敏感というか、自分が気に入らないものは持たないしどんどん捨てるタイプゆえに、選び抜いた自分のモノを汚されるのは嫌だというか。
勝手知ったる自分のお気に入りに囲まれてるのが安心するタイプなのよね。と、猫みたい…と呆れ半分少し可愛くもなってしまう。
そんな繊細なところも……なんて考えて目を閉じているうちに、意識はどんどん薄くなっていき……

「おい」
「…わぁっ!」

突然声を掛けられて、一気に意識が再浮上。
至近距離に尾形さんの顔があって悲鳴を上げてしまう。

「びっくりした…何ですか…?」とバクバクいう胸に手を当てて尾形さんを怪訝な顔で見ると、
「やっぱりいつものパジャマがいいんだが」と真顔の尾形さん。

「……はい?」
…こ、これは。
「…えーと、着替えるってことですか…?」と冷や汗を垂らして首を傾げると、口をギュッと結んで真顔で押し黙る尾形さん。
…答えはイエスということね。
お疲れ時のワガママモード、突入…。と心の中でガックリ膝をつく私。

「ちょうどいいかと思って、今いつものパジャマ洗濯してます。それに替えを取りに行くのサムイな…」と笑って誤魔化そうとすると、
「…なんだ、そんなことか」とガバッと自分のパジャマを脱ぎはじめた。

「ちょっと!尾形さん!?」と目を丸くする私のネグリジェもあっという間に脱がせてしまった尾形さんは、バサッと私に自分のパジャマをかぶせる。
「これ着ろよ。…なんだよ、ウチに泊まる時たまに着てるから嫌じゃないよな?」とキョトン顔。

そうして自分は下着一枚でブルブル寒そうにクローゼットまで歩いていき、置いてある替えのスウェットにもぞもぞお着替え。
戻ってきて私が着替え終わっていることを確認すると、満足そうにベッドに入って布団をかけた。

「…ワガママ」と、尾形さんを見上げて言うと、何故か嬉しそうにははッと笑う。
全くどんな精神構造してるのよ、と顔をしかめると、私を思い切り抱き締めてスンスンと匂いを確認。

「…満足しました?」と横目で問い掛けると、「…した」と目を閉じる尾形さん。
「…マーキングし直さないといけないから変な寝巻きやめろよな。落ち着かないから。普段着はいいけど、寝るときは…」と眠そうな声で呟く。
…やっぱりマーキングだったんだ…と顔が赤くなってしまうが、同時に込み上げる愛しさ。

そうだよね。一番リラックスするのが寝る時だもんね。
珍しく素直な気持ちを吐露した尾形さんのおでこにキスを一つ。
頭を撫でてあげて、抱き締めてまた顎に一つキスを。

「…あんまりするとその気になるぞ」と目を閉じたまま尾形さんが言うのでビクッと動きを止めて早めの退散。
…触りどころ間違えるとすぐこうなるのも猫みたい…とほんの少し笑いが込み上げながらも、私も目を閉じ、やがて眠りに落ちたのでした。

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