■ 寺生まれの女子高生漫画家と露伴せんせー 参
「ふふっ、ふふふっ、ひゃっふっぅぅぅぅぅーーー!!!!」
20歳男性の雄叫びが、7LDKの豪邸に響いて約五分が経過した。
「ふふ、ふふん、グフフッ。わはははは!」
ジャンプ、ステップ、ワンツー、ワンツー。
「『ピンクダークの少年』が__。岸辺露伴って言う【とてもカッコイイ】先生が描いてはる、『ピンクダークの少年』が、【世界で一番】面白くて、好きです____か。ふふっ、はっーーはっはは!!」
クイック、クイック。最後に決めポーズを添えて、何度目にもなる雄叫びを挙げた。数十分前に遭遇した巫女さんのセリフを都合よく改変し、裏声のイントネーションで声真似して。
「ふふふふふふ。そうか、僕の漫画が一番か。どの漫画よりも!ペンネームの漫画よりも!!!」
わかってるじゃあないか!
人生の中でも五本の指に入る程に、最高にハイになったテンションの露伴は、本棚から未開封の、一番紙質のいいスケッチブックを取り出した。
1枚、2枚、3枚__27枚。みるみるうちにスケッチブックは一人のモデルで埋め尽くされていく。
「かわい、かったな……」
瞳孔を開きながら、只ひたすらに黙々とイメージデッサンを続けていた露伴がポツリと呟いたのは、スケッチブックの固い背表紙の隙間まで彼女の巫女服姿で埋まった後だった。ぐるぐると、彼女の姿が脳裏に渦巻く、スケッチブックの後半には名誉毀損に等しいポージングで悩ましげにこちらを見つめる彼女が数名確認される。
好きだと、僕の漫画を好きと言ってくれた。自分の全てである、ピンクダークの少年を。
「ふふふ___。よし!」
岸辺露伴はペンを取る。
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からん、ころん。オレンジに染まるアスファルトに下駄の音が響く。
「けったいなお兄さんやったなぁ。あの人」
甘いものが欲しい!本能が体にサイン響かせ、『家業中』であった苗字#name#は、お目当ての生クリーム系とプリン系の糖分がオーソンで手に入らず、シワの寄ったジャンプが入ったビニールをぶら下げ、帰宅中であった。
「うーん、やっぱりお店にあると買ってまうわぁ」
もう今週号は、担当さんから渡されて、もってるけれど。
なまえは先ほど、上から下まで奇抜すぎるファッションの男性からの、血眼の質問を思い出した。
「きみの、すきな、まんがは。すきなまんが、なに?」
「何やったんやろう、あの人……。ついとっさに正直に言うてもうたけど、せっかくやし、さりげなく自分のん勧めといてもよかったかなぁ」
いや、それはあれやな、ステマっちゅうやつやな。
そんなことを考えつつ、固い石段を一段、また一段。
敷き詰められた石畳、赤い前掛けを携えた狛犬さん、小さくも厳格な佇まいのお社に、漂う柳。そしてオロオロしながら涙目になってる不良が一人。
「あ、あんたが苗字寺の巫女さんか!?」
「あ、はい。そうです」
ズザァァァ!!
足もとに傷の付いた強面がすがりつく。嫌な予感。
「だずげでぐれぇぇぇぇ!!!!」
あかん、またや。
なまえはこれから彼が自分に懇願するであろう内容を思い浮かべ、ため息が出そうになった。けれども、これも彼女の『家業』のうちである。
「どないしはりました?」
顔の穴から色んな液体が出ている彼を落ち着かせるために、なまえは努めて優しくはんなりと問いた。
3話目でやっと名前登場。
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