5000HIT企画アンケートニ位 雪夜燐(R18)
絶対的忠誠




夜も更け、街の明かりも減った頃。
取り分け、夜になると闇化する旧正十字学園男子寮のある一室。

ぺちゃりくちゃりと、水音共にする二人分の吐息。
長身で眼鏡を掛けた少年の股間に、顔を埋めて目を潤ませている少年が一人。
眼鏡の少年は、そんな自身のモノを咥えている少年を、愛おしいそうに片手で髪を梳いている。
膝を折って口を大きく開けている方は、反り立つ自身のモノからダラダラと蜜を垂らて、それでも奉仕を続けている。

「燐、そろそろイくよ?いいつけ通りするんだよ・・・」

梳いていた髪を両手で鷲づかみにすると、長身の少年は、激しく腰を動かし自身のモノを咥え続けていた少年の口へ欲望を叩きつけた。
咥え続けている少年の方は、よほど苦しいのか潤ませていた瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ、揺さぶられる頭部を支えるために、眼前にいる少年の脚に手を添えて縋りつく。

「ンンンーーーッ」

口の中に広がる独特の苦味があるものを感じると同時に、体が一瞬で沸き立つような感覚に囚われ、その熱が中心の先から出て行ったのが感じられた。
ずるりと口の中から咥えているものが抜かれると、口の中にある粘り気あるソレを飲み込むと、口を開いて呼吸を整える。
肌をにわかにピンク色に染め、自分の吐き出した物で唇を潤わせ、半開きで惚けているように見える様は、なんて煽情的なのだろう。
むらりと来る自分の欲望を抑えなければ、そろそろ時間だ。

「良く言いつけ通りできたね、燐。本当は続きをしたいけれど、もう時間だから」

鷲づかみにしていた、髪を再び優しく梳かすと、それに答えるように座り込んでしまった少年はピクリと肩を動かした。

「帰ってきたら、ちゃんとごほうびあげるからね」

コクンと頷いた少年は、顔を真っ赤にして顔を上げない。
口の中に射精されただけで、自身も達してしまう躯なのに、気持ちの上では初心さを保っているのだから、本当に可愛らしい生き物だ。
本当は、雪男がそうなるように燐を躾けたからなのだけれど。


去年の夏休みのこと、燐はサタンの落胤として公になってしまい、半年以内に祓魔師の資格を取るという条件の下、処分を免れた。
しかし、それは言い換えると、半年で資格が取れなければ、殺処分されることを意味していた。

燐は人生の中で一番の努力し続け、彼の師匠となったシュラもそして、弟の雪男も、協力を惜しまなかったが、結局、半年で資格を取ることは出来なかった。
そもそも、今まで何の予備知識もなく、いきなり祓魔師を目指した者が簡単に資格を取れるほど、簡単なものではなかった。
そんな恐れを感じていた雪男は、何とか兄の存命を考え、切り札の一つとして手騎士の資格を手に入れていた。
実の兄を、自分の使い魔にするために。

勿論、そんな屁理屈のような事がヴァチカンに通じるとは思っていなかった。
彼らは危険分子であるサタンの仔を処分したくて仕方が無いのだから。
だからこその、僕(弟)という最後の切り札。

「僕は兄と違い、幼少の頃から兄が青焔魔の落胤だと知って、祓魔師を目指し資格を取りました。養父は、兄が正十字騎士團の最強の武器となれるように、僕という鞘を育てたのです。兄は僕の『お願い』を無視できない様に育てられました。なんなら、ここで証明してみせましょうか?」



そう、兄・燐とは、実の兄弟でありながら、誰にも理解されない主従関係にあった。
子供の頃は精神的に。
そして、お互いが中学生になり『性』に対して興味を持ち出した頃、体へ。

雪男の絶対的自信と、彼の実績を考慮し、燐が持つ人間としての人権の剥奪を条件に、雪男の願いは聞き入られた。



人権を剥奪されたけれど、メフィストの恩情を受け、高校に通ってる。
『正十字騎士團の武器』なのだからこそとわざわざ理由をつけてではあるが、塾だって続けさせて貰っている。
鞘である雪男の行く先ならば、日常の外出も一緒に行ける。

表の世界で『奥村燐』は死亡したことにされたが、二人にとってそれは然程大きな問題ではなかった。
覚醒してしまった体では、通常の病院に行くことも出来ないし、それこそ死ぬ事も人間より容易ではないのだから、むしろ長い目で見れば好都合だったかもしれない。

二人の中で変わったのは、二人の関係性がより明確になったことぐらいだろう。
二人っきりの時、雪男は兄を燐と呼ぶ。
燐は、以前よりも雪男の命令を拒否しなくなった。
一見、二人の兄弟愛は屈折愛のように見えるが、二人はちゃんと愛し合っている。

それがヴァチカンには、青焔魔の仔を従えるというよりも、絶対服従させた手騎士に見えるのだから、より好都合なのだ。


今日も、燐は雪男の任務へ着いて行く。
首には青色をした首輪が光っている。

これは、燐が青焔魔の落胤だと知られた時に、ヴァチカンから尻尾に付けられたリングと同じ作用をするもの。
ただし、特殊な拘束具で禁固術は雪男と燐しか知らない。
雪男はヴァチカンの前でこれを燐自身に付けさせた。
強力な悪魔であっても、首と同体を離されては生きていられないというのが、人型悪魔の弱点であるというのがヴァチカンの常識だ。
その常識のおかげで、今日も一緒に任務に就けれるのだ。



今夜の任務は、そう難しいものではなかった。

去年から一ランク昇級し、上二級祓魔師となった雪男をリーダーに、燐と祓魔師の男2人で行った任務は日が昇る前には終了した。
今は、雪男から連絡を受けた洗浄作業員の祓魔師たちに、任務経過の報告をしている雪男を待っている。
報告が無事に済めば、任務終了で解散となる。


「・・・おい、こんな所に悪魔がいるぞ」

一緒に任務についていた祓魔師たちから、少し離れた場所で雪男を待っていた燐の耳に、彼らの声が耳に入った。

目的だった悪魔は全て排除たのに、まだ悪魔がいたのかと思いつつも、祓魔師たちの声に焦りは見受けられず、ゆっくりと燐はそちらに足を向けた。

「瀕死だ」

「まだ子供だな」

「止めをさしとくか」

祓魔師の後ろから覗き込むと、燐の使い魔である猫又のクロになんとなく似ている小さな悪魔が、血だらけになって蹲っていた。
血痕は今回の任務地でない方向から続いており、任務の悪魔とはなんら関係性がないようだった。
蹲った悪魔は、掠れた小さな声で何かを言っている。

「まて。何か言ってるぞ」

咄嗟に、祓魔師たちを止めた。

『・・・頼む』

悪魔の声が、人間に聞こえることは稀だ。
きっとこの悪魔の声も、悪魔である燐にしか聞こえていない。
重傷の体から、振り絞って発せられるその言葉に、燐は耳を傾けた。

『頼む 俺に・・・悪魔の殺し方を教えてくれ』

「悪魔の殺し方?!」

悪魔の言葉をただオウム返しに口にしたその言葉に、祓魔師たちが一斉に振り返った。
祓魔師たちの目を気にしながら、祓魔師が悪魔から聞きだしたいことを口にする。
それは、燐も聞きたいことだった。

「理由を聞いてもいいか?」

悪魔は、いかにも苦しそうに、顔はそのままに目に燐を映して、言葉切れ切れに発した。

『ある人間の娘を・・・助けたい・・・頼む・・・頼む』

「それは、俺たち祓魔師が祓ったらいけないのか?」

『・・・頼む、悪魔の・・・殺し方を・・・』



悪魔の瞳に写った燐は、先ほどからずっと歪んだまま変わらない。
燐は覚醒してから今まで、多くの悪魔を見てきたが、泣いた悪魔を見た事が無い。
悪魔は常に快楽を求める生き物。
どんな逆境であろうとも、それを笑い楽しむか、怒り狂うかどちらか。
どちらにせよ、その心は常に自分に向いているのが悪魔だ。

以前、同じ塾生に『お前は悪魔であって、悪魔じゃない』と言われたことがあった。
その意味を聞くと、『悪魔は、他人を想うことはない』『それから、涙を流さない』ということだった。
言われてみると、確かに合点いく部分が多く、所属している中枢からは散々『悪魔』といわれ続けていたので、救われた気分になったのを覚えている。


つまり、その定義でいくと、この悪魔は『悪魔であって、悪魔じゃない』のだ。



傷が深いのか、再び蹲ってしまった悪魔に、燐はそっと手を差し伸べ、そのまま小脇に抱えた。
血でコートが汚れるのも気にせず、悪魔を労わるような仕草を見せる燐に、祓魔師たちが口を出した。

「どうするつもりだ」

「雪男に頼んで、メフィストに見せる」

「そいつは、悪魔だぞ」

「俺もメフィストも悪魔だよ」

「お前は天才祓魔師の使い魔で、メフィスト卿は・・・」

「大丈夫。こいつは多分、人間を襲わない」

この祓魔師たちと任務に就くのは、初めてではない。
天才祓魔師の絶対服従の使い魔とはいえ、焔魔の仔と一緒に任務に就きたがる祓魔師はそうおらず、一緒になる祓魔師はどうしても被ってくる。
いざ一緒に組むと、身を呈してでも仲間を護り、仲間を想うあまり単独行動に出てしまうその姿に、誰よりも人間らしくい思うのだが、其処に至るまでどうしても時間がかかる。

少しずつ積み上げて来た実績が、燐との間に信頼関係を築く。
だから今日の仲間たちは、普通なら愚行でしかないその行為も止めることはしなかった。


洗浄作業員への報告が全て終了した雪男がこちらに顔を向けると、燐は腕の中にいる悪魔を庇うようにゆっくり進んで近寄った。
雪男は、なにか切羽詰まった表情を見せる燐に気づき、燐の腕に抱かれた小さな悪魔に視線を落とした。
どうしたのと、聞く前に燐が先に口を開いた。

「助けて」

燐は、よく主語が抜けたり、受け答えがズレたりすることがある。
それは頭でで何かを考えながら話している時、切羽詰まって気持ちが先に出てしまう時。
長年一緒に生活を共にしてきた雪男ですら、たまにその言葉を理解するのに時間が掛かってしまうが、今回は『何が』対象なのか直ぐに分かる。

考えなしに行動するのは燐の悪い癖だけれど、それは結果として間違っていないことが多いので、邪険にはしたくないが、確認はしておかなければいけない。

「一応確認しておくけど、助けたいのはこの悪魔だよね?」

「他に何がいるっていうんだよ」

予想通りの言葉が返ってきたのを確認すると、雪男は燐の腕の中をぐっと覗きこんだ。

意識を飛ばしかけているその悪魔の仔の傷は、何があったのかなり酷く、鋭利な物で切られたというより、鈍く尖った物で強くひっかかれたような裂傷が、幾重にもあり助けるならば、一刻を争う危険な状態だった。
相手が低級悪魔であることも、確認済みの上、燐の申し出を受け入れることにした。

「部屋へ運ぼう」

短く燐にそう応えると、雪男は一緒に任務についた祓魔師たちに、任務終了を言い渡す。

祓魔師たちは、何か言いたげにしていたが、それに応じることはなく無言で踵を返て、近くにあった鍵穴のある扉に鍵を差し込んだ。
後方から当たり前の様に、悪魔を抱えたままの燐が付い行き、そのまま扉の向こうへと消えた。





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